動画TV「る~り~の大部屋」。右が沖本るり子、左が佐藤綾
90年代後半以降、日本では人事制度において、コンピテンシー(好業績者の行動特性)が急速に普及しました。好業績の社員をハイパフォーマーと規定し、その行動、態度、思考パターンを抽出するというプロセスが非常に新鮮だったのです。
『お客様から教わった営業で大切なたったひとつのこと』(同文館出版)の著者である、佐藤綾(以下、佐藤)は生保業界のトップセールスレディでありハイパフォーマです。その経歴は非常にユニークです。高校卒業後、18歳で結婚し出産。24歳のときに、大手生命保険会社に入社。28歳で組織長(支部長)昇格し組織を拡大しながらも5年連続1位の業績を収めます。現在、5人の子どもを育てるシングルマザーであり、お孫さんもいるとのこと。
●自分が何者であるかを知ること
まず目を引いたのが、佐藤の生保業界に対する的確な表現です。「梅干しと聞くと口の中に唾液がたまるように日本人のほとんどは〝保険屋〟と聞くと危険センサーが作動し身構えてしまいます。日本人の約9割が生命保険に加入しており、その中の7割の人が営業マンチャネルを通しているにもかかわらず、私達〝保険屋〟は嫌われているのが現状です。」
これほど的確な表現はありません。だからこそ、佐藤は仕事に対する思いを次のようにも語っています。「本来、人様のお役に立ち感謝していただける立派な仕事のはずです。だから『嫌われない保険屋』にならなければいけません。」
さらに、佐藤は好業績を創出するためには、まずはお客様に安心してもらうことが必要であるとも述べています。「お客様に安心して何ごとも相談していただける〝保険屋〟さんになるために必要だったことは、営業トークでもなく説明力でもありません。人を思う気持ちを持ち、人として信頼していただけるという当たり前のことを日々忘れずにいることです」。その結果が満足につながり「喜んでもらえる」と。
「言易行難」と、漢王朝の時代から言われているとおり、口で言うのは簡単ですが実行するのは難しいものです。この示唆はすべての仕事に通じるのではないかと思います。
私自身のコンサルティングの仕事を振り返ってみます。商品は高額なプロジェクトです。そして一定の成果が求められます。「成果」が得られることで、コンサルタントとしての評価は高まります。しかし、本当に喜んでもらえたのかというと、そこはブラックボックスだったように思います。プロジェクトは利害関係者の集まりなので、全員に喜んでもらうことはできませんが、その視点があれば違った意味での評価があったように思います。
佐藤は、お客様を「喜ばせる」ことについて次のように述べています。「情報を自分で独り占めして生かせずに終わってしまうより、共有したことでよい案が生まれることがたくさんあります。『分かち合う』ことで信頼や信用が生まれ、人から感謝していただけることもあります。今の私は仕事柄、多くの業種の知人、友人がいますが、そのステキな人たちをどんどん人に紹介するように心がけています。」
人の紹介は間違いなく喜ばれます。佐藤は紹介の際には、後に信頼関係を構築できるような長期的な視野をもつことが大切とも述べています。「短期的に獲得した顧客は、裏を返せば、すぐ取引先を変えるということです。一時的に利益になったとしても、場合によっては損失になってしまいます」。言い得て妙ですが実際の取引はこのようなことの繰り返しでしょう。同じパイを食い合うわけですから、相手の取引先を奪えば自分の売上になり、その逆もあるわけです。長期的な視野は自分のビジネスを守るのかも知れません。
● 本日のまとめ
ビジネスでは、日々の数字を追いかけることは大切です。短期的な数字を追い求めることで、失うものもありますが、それぞれの立場があり時間的制約もあります。だからこそ、ビジネスは面白いのかも知れません。
最後に佐藤のメッセージを引用し結びとします。「営業で大切なたった一つのこと、それは、売ろうとせずに喜んでもらおうとすること。〝働く〟というのは『誰かのお役に立つ』ことです。誰かに必要とされ、お役に立ち、そして喜んでいただくそれを体験できることこそ仕事の醍醐味なのです」。この機会に、「気遣い」「心配り」とは何か?について振り返ってみては如何でしょうか。
尾藤克之
コラムニスト
追伸
このような佐藤のもとには、多くの人が相談に駆けつけるそうだ。そして佐藤がいま取組んでいるのが難病支援などのボランティア活動である。以下のニュースはご覧になった方もいると思うが取組みの一つとして紹介しておきたい。
「肺移植で募金呼び掛け=難病の1歳女児」(時事通信社)
「米で肺移植目指し、家族ら募金」(朝日新聞デジタル)