金利を上げられなくなったアメリカ

イエレン議長はこの一週間をどういう気持ちで過ごしているのでしょうか?氏の描いていた金融政策はシナリオが狂い、通常事態に戻るのに数年かかるかもしれません。イエレン議長のゆっくりとした金利の引き上げはたった一度の利上げで終わる可能性が現実のものとなる気配すらみえてきました。

議長にはもともと逆風が吹いていました。それはドナルド トランプ氏がイエレン議長をサポートしておらず、自分が大統領になったら更迭すると発言していることにあります。イエレン議長はアメリカ経済の回復状況を見ながら徐々に金利を引き上げることを提示していますが、利上げはドル高を招きやすく、アメリカの輸出産業には不利であります。トランプ氏はそこをけん制しています。

もう一つは大統領選が近づくと金融政策で「変化」が生じることを好まないとされます。7月のFOMCで利上げをしないとすれば次の政策会議は9月となってしまいます。そうなると11月の大統領選挙戦の真っ只中となり、利上げは政治要因でやりにくいとされています。

その7月の利上げの可能性は英国のEU離脱派の勝利が決まる前でさえも低いとみられていたのですが、この一週間で金融市場は再び土砂降りに見舞われてしまいました。特にドル資金が不足しがちな状態の中、利上げなどしたらバランスが崩れ、世界の金融市場はガタガタになる可能性があります。これで7月の利上げの可能性はほぼ消え去ったと言ってもよいでしょう。

かつてカナダは高金利国でありました。80年代は当たり前の二ケタ金利だったのに90年代半ばに銀行預入金利が5%ぐらいまで下がり、多くの人を惑わせました。専門家も「いつかはまたあの時が来る」と信じて疑うことはありませんでした。私は90年代後半にカナダの金利はもうかつてのようにはならないと専門家とやり合い続けたのですが、ほとんど聞く耳を持ってもらえませんでした。今になってそれを実感しているでしょう。

金利の上げ下げによる金融政策は国家の経済が活性化し成長期にあるときには極めて有効だと思います。しかし。経済の沈滞期にはいわゆる経済循環の法則に基づき、金利の調整機能によって再び経済が活性化する場合と構造的問題で金利の上げ下げだけでは効力を十分に発揮できなくなる場合があると考えています。

今の世界の不確実性はまさに後者の方で、金利をマイナスにしてまでも調整しなくてはいけないのは金融政策の限界を超えているのではないでしょうか?当然、「余波」はマネロン、タックスヘイブン、安全な国の不動産購入を通じてヘッジさせるという歪んだマーケットを生み出します。

今後英国を含む欧州が向かうのは「ガラガラポン」。つまり国家再建だろうと思います。その際、弱体化した自国経済、及び近隣諸国経済の健全なる立て直しは一旦ドアを細くする政策をとらざるを得ない気がします。自国産業の再生のために海外の安い物品を一時的に輸入制限するなど産業再構築策が取られてもおかしくはないでしょう。移民も厳しくなる、これが私の見立てる3年後の欧州です。

当然、世界貿易は低迷するでしょう。基軸通貨発行国アメリカもその流れを変えることは難しいかもしれません。利上げで世界からドルをアメリカ国内に還流させることは再び病気入院した欧州諸国に鞭を打つようなものです。

世界の低金利は今後もずっと続く、そんな絵面がぼんやりなりとも見えてきた気がします。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 6月30日付より