写真は講演中の沖本。
「上司との打ち合わせ」「社内ミーティング」「お客様へプレゼンテーション」。ビジネスの場面において、話すことは自らの評価を高める重要な機会として考えられています。しかし、「伝えようと思ったことが伝わらない」ということが発生してはいませんか。
「それ伝えてるつもり病かもしれません」と答えるのは、企業向けの人財育成や、動画TV(る~り~の大部屋)を手がける、沖本るり子氏(以下、沖本)です。
●「伝えたい」でも「伝わらない症候群」
――研修やセミナーで「伝えてるつもり」になっていることはよくあるものです。特に専門分野になると知識のある人は饒舌になり話が止まらなくなります。私はアセスメントや評価が専門ですが、次のような説明をされたらどのように思うでしょうか。
「多種類の説明変数があり目的変数がないときに指標となる定量データを用意してください」「主成分の個数は元変数について寄与率と累積性を勘案してください。主成分分析はプロマックス回転で0.7以下を切ってください」。よほどの分析マニアでもない限り、頭が痛くなるに違いありません。
これは車をケースにするとさらに分かりやすくなります。例えば、フェラーリF12ベルリネッタを説明する際に、「エンジンは6,262ccV12DOHC、最高出力740PS/8,250rpm、最大トルク690N·m/6,000rpm、サスペンションはダブルウィッシュボーンを採用しています」と説明されても意味が通じません。一言、「この赤い車、カッコいいでしょ?」と説明したほうがツカミは取りやすいものです。
沖本はこれらの問題が発生する原因について次のように答えています。「ほとんどの人は社会人になると同時に、当たり前のように会議に参加することになります。ところが社内では『会議のスムーズな進め方』『会議のアウトプットの出し方』などを教わる機会がありません。情報の取捨選択や整理をするルールがないのです。」
――確かに、よくある光景かも知れません。会議の参加方法が分からないのに上司は全員参加を命じます。そして意見が交わされることを期待し、本来とは異なる方向性に進んでいるにも関わらず会議が盛り上がっていると勘違いをします。取捨選択や整理がつかないのに、そもそも全員参加もないわけです。
「手に負えないのが、『タイムマネジメント』を強制する上司の存在です。日々、時間の重要性を説いているにも関わらず、終了時間になっても終わらずに延々と話している会議があります。参加者は険しい顔になっていきますが上司は気がつきません。日頃の主張に反して終了時間が守れない会議に説得力はありません。」(沖本)
●会議は「落としどころ」ではなく「上げどころ」を
では、会議を上手く進行し結論を導くためには何が必要でしょうか。沖本は、「落としどころ」ではなく「上げどころ」だと主張します。「一般的に会議というと『賛成』『反対』といった立場で対立することが多くなります。さらに、『落としどころ』を見つけることに終始します。多くの人が集まる機会ですから賛否ではなく、『上げどころ』(妥協しない解決点)を見つけて同時に『デメリットを考える』、効率の良い会議が理想です。」
――会議には必ずデメリットが存在します。ところが職責の高い人へのデメリットは発言しにくいものです。また過度なデメリット出しは会議にネガティブオーラを充満させて、建設的な討議を難くします。この点について、沖本は次のように答えています。
「アイデアに対してデメリットは言いにくいものです。否定・批判は、された人も聞いている人も嫌な気分になります。そこで、誰も悪者にならないようデメリットだけを探す時間を設けるのです。もちろん自分が提案したアイデアにも同じようにデメリットを探します。また、デメリットは出しっぱなしで終わるのではなく事前に“策”を考えておきます。全員で考えれば多くの策も考え出せます。」(同)
――このような会議の運用には慣れが必要かも知れませんが、全員が参加するデメリット出しで、時間も区切られているのならネガティブオーラは払拭できそうです。
「最初に会議のルールを決めてください。発表は、討議するテーマについて 1 回に“ひと言だけ”です。ひと言で、すぐ次の人が発言します。制限時間が来るまでずっとぐるぐる順番を回します。もし意見が思い浮かばなければ『パス』もありです。流れを止めないようにしましょう。」(同)
●本日のまとめ
会議を効率的に進めるには、「上げどころ」を見つけて「デメリット出し」と「策出し」をすることが必要なのかも知れません。
最後に沖本のメッセージを引用し結びとします。「会議はノウハウを知って正しく活用すれば組織の問題解決や課題クリアに役立つだけでなく、個人の成長をも促すことができるツールです。上手く会議を進行すれば、時間をかけることなく、会議の目標をスムーズに達成させ、さらに“人財を育成する”という大きな付加価値も生み出すことができます。」
参考著書
『リーダーのコミュニケーションの教科書』(同文館出版)
尾藤克之
コラムニスト
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