クリントン候補、FBIの事情聴取に応じるも…

安田 佐和子

民主党のクリントン候補は独立記念日のロングウィークエンドの狭間の2日、米連邦捜査局(FBI)の調査に応じました。もちろん、お題は国務長官時代の私用eメール問題です。

側近の事情聴取が始まった5月の段階か長らく取り沙汰されていた本丸、クリントン候補への聴取は3時間半に及んだといいます。当の本人はは聴取に「前向き(willing)」で「自主的(voluntary)」だったとか。おりしも、米下院の共和党陣営が2年にわたる調査を元に提出した800ページに及ぶレポートで「過失なし」との判断が下ったばかりですから、大船に乗ったつもりだったのでしょう。クリントン候補の聴取に弁護士が同席したとの話が伝わっており、あくまで任意で告訴を目指したものではなかったとみられます。「クリントン陣営は聴取がeメール問題を対する調査終了に向けた一歩として歓迎している」——そんな話が聞こえてくるはずです。副大統領候補として有力視されるティム・ケイン米上院議員(バージニア州)も3日にABCのインタビューに応じ、起訴のリスクを「懸念していない」と明言していました。

トランプ候補が「システムは不正に操作されている!」と怒るように、お咎めなしの公算。


(出所:Twitter

ワシントン陣営を中心とするクリントン候補への”告訴なし”観測は、一段と現実味を帯びてきました。しかし、まだ問題が残ります。

それは、夫のビル・クリントン元大統領です。

クリントン元大統領と言えば、マサチューセッツ州の予備選でも選挙違反と思しき行動を取って一部で猛烈な批判を浴びたものです。今度は、妻ヒラリーのeメール問題の調査をめぐり最終段階にある米司法省の長官に歩み寄るという失態を犯してしまいました。

オブザーバーによると、アリゾナ州のフェニックス空港にて離陸するはずのクリントン元大統領が乗ったプライベート・ジェット機は、ロレッタ・リンチ米司法長官が控える航空機が同じ滑走路に着陸するまで待機していたといいます。明らかに、クリントン元米大統領が面会する機会を伺っていたと解釈できますよね?リンチ米司法長官と言えば、当時大統領だったクリントン氏にNY東部地区連邦地方裁判所の判事に指名された人物です。

妻のクリントン候補は暫く沈黙していたものの、FBIで聴取を受けた後にNBCのインタビューに応じるなかで夫とロレッタ米司法長官との面会に触れ「短い、偶然の機会だった」と振り返っていました。その上で、両者の顔合わせがいかに政治的に批判を招くものだったかとお互い認識したと言及、二度とこうした面会はないと述べた一方で「後の祭り(hindsight 20/20)」と断っていました。

もともと、クリントン元大統領は空港で誰かに話しかける癖があったようです。米大統領予備選を戦ったテッド・クルーズ米上院議員、ポール・ライアン米下院議長、トランプ候補を支持する数少ない米上院議員のオリン・ハッチ氏、アーノルド・シュワルツェネッガー元カリフォルニア州知事などの名前が挙がっていました。こうした共和党陣営の名前を振り返ると、空港での面会に何らかの意図を感じ取ってしまうもの。今回は米司法長官という相手なだけに、クリントン元米大統領が妻のeメール問題に干渉したと疑われても仕方ありません。

妻のクリントン候補が夫を差し向けたとの邪推を招き、好感度が低下する可能性をはらみます。そもそもクリントン候補、支持率でこそ共和党のトランプ候補を上回るとはいえ、好感度は相変わらず低い。キニピアック大学が6/21〜27に実施した世論調査によると、トランプ候補への好感度は34%に対し、クリントン候補も37%と大して変わりない状況です。ニューヨーク市からフロリダ州、テキサス州に住むアメリカ人からは「今年はどちらの候補も絶望的」、「共和党の予備選ではクルーズ候補とトランプ候補の間で射殺か毒殺を選ぶようなものだったが、クリントン候補とトランプ候補でも状況は変わらない」、「党大会で波乱が起きればいいのに」と、かなり辛辣な声が聞こえています。少なくとも、今回の米大統領選での投票率は記録的に低い水準にとどまるでしょう。

(カバー写真:Veni/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。