宗教心が高まるラマダン(断食月)終了時期を迎え、立て続けにテロ事件が発生しているサウジアラビアだが、誰もが認める堂々たる石油埋蔵量を誇る石油大国だ。今年4月に発表された「脱石油」を目指す経済改革計画「ヴィジョン2030」の中核をなす国営石油サウジアラムコのIPOにより、保有埋蔵量の信憑性が確認されることが期待されている。また信頼度の高いスーパーメジャーのBP統計集によると、膨大な量の超重質油を保有するベネズエラに抜かれ世界第二位だが、伝統的な生産が可能な「在来型」だけに限れば、圧倒的な首位であることは間違いがない。
そんな「常識」を持つ筆者の目に、刺激的なタイトルの記事がFTに掲載された。”US oil reserves surpasses those of Saudi Arabia and Russia” (July 4, 2016 4:31pm)と題するものだ。気になって読んでみた。
ノルウエーのオスロにあるRystad Energyというところが3年かけて、世界中の6万箇所の油田(fields)を調査した結果を7月4日(月)に発表した、というものだ。これによると、世界合計は2兆1000億バレルで70年分の生産量に相当する。その中でアメリカは2640億バレルで、サウジ(2120億バレル)やロシア(2560億バレル)を初めて追い抜いた。
調査した油田は、既存生産中のもの(existing fields)、既発見のもの (discoveries) および未発見のもの (yet undiscovered area) を含むとしている。
同社のPer Magnus Nysveenは「他の国々では今後、驚き(surprise)は少ないだろうが、アメリカは別だ」と、テキサス州とニューメキシコ州にまたがるパーミアン盆地(Permian Basin)における最近の「発見(discoveries)」事例をあげて指摘している。
「3年前にはサウジアラビアやカナダ、あるいはロシアの後塵を拝していた」アメリカでは、半分以上が非在来型のシェールオイルが占め、テキサス州だけで600億バレル以上を有する。
BP統計集ではベネズエラやサウジアラビア、あるいはロシアの方が多いことになっているが、BPは公表データ(official reporting)を使用しており、産油国が発表している埋蔵量数値は不明瞭 (opaque) だ、としている。
記事は、埋蔵量も重要だが生産コストも重要だ、というロンドンベースのコンサルタントEnergy AspectsのRichard Mallinsonの次のようなコメントを紹介している。
「私企業も産油国政府も、短期および長期の収入(return)を考えると、埋蔵量のみが問題ではなく、他の多くの要素が重要だ。米国の埋蔵量が増加したということで、サウジやロシアなど生産コストの安い産油国の役割がなくなるということではない」
米国のシェールオイルは、過去2年間の間に生産コストをほぼ半減させ、40ドル以下のところもあるが、サウジや中東諸国は10ドル以下だ。
「産油国には安いコストで生産できる油田(sweet spot)もあるが、それぞれの国の財政事情により、高価格を望んでいる。ただし、高コストの石油の生産を必要以上に可能にするほどの高い価格ではない」
なるほど。
やはり「埋蔵量」の「定義」が重要なのだ。
BP統計集2016年版によると、埋蔵量の世界合計は1兆6976億バレルで、アメリカは世界9位の550億バレルとなっている。サウジは2位の2660億バレルでロシアが6位の1024億バレル。ちなみに首位はベネズエラで3009億バレルとなっている。
技術に弱い筆者でも「秘密」は「未発見」油田の埋蔵量の取り扱い方にあるのでは、と想像がつく。「未発見」ということは、井戸が掘られて発見されたことがない地域ということだから、掘削データ以外の関連地質情報の多寡によって評価が大きく分かれるのだろう。
うーむ。難しい。
もう一度弊著『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか』(文春新書、2014年9月)を読み直してみようかな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年7月4日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。