【映画評】ペレ 伝説の誕生

渡 まち子

PELEブラジルのスラムで生まれ育った少年ペレは、1950年のW杯で優勝候補筆頭の地元ブラジルがまさかの敗北をきして涙にくれる父親に「僕がいつかブラジルをW杯で優勝させる」と約束する。やがて才能が開花しプロチームに入ったペレは、17歳でブラジル代表に選ばれる。だが50年大会の敗北から自信を失ったチームは崩壊状態。1958年のW杯スウェーデン大会に臨んだペレには多くの試練が待っていた。そんな時、父が言った「いつでも自分を信じ続けろ」という言葉がこだまする…。

サッカー王国ブラジルの英雄ペレの若き日にスポットをあてた伝記映画「ペレ 伝説の誕生」。貧しくてもサッカーを存分に楽しみ、両親の愛情をいっぱいに受けて育った少年時代、貧富の差による屈辱、友人の悲しい死などが描かれるが、エドソン・アランチス・ドゥ・ナシメントという名の少年が、どういう経緯でペレと呼ばれることになったのかというエピソードは面白い。

ペレが偉大な選手であること、スウェーデン大会で衝撃的なデビューを果たしチームを優勝に導いたことは、サッカー好きなら誰もが知る事実なので、物語そのものに驚きはないのだが、全編を貫く“ジンガ”のスピリッツは印象に残る。ジンガとはブラジルに根付いた文化、精神、スキルのことで、常に身体を揺らしながらの自由な動きは、サッカー以外にもサンバやカポエイラなどにも活かされている。欧米式の理論に基づいたサッカーではなく、ジンガを大切にしたブラジルらしいサッカーの素晴らしさに目覚めたとき、そこには勝利が待っているというわけだ。

ただ、これはあくまでも1950年代当時のW杯事情。現代ではサッカーを取り巻く環境も激変している。特に、市民生活の充実を無視してまで大金を投じて開催した2014年W杯ブラジル大会への国民の怒りの声は記憶に新しいので、少なからず複雑な思いも。名選手をたたえる正統派伝記映画で、良くも悪くもお行儀のよい作品だが、ペレを演じる少年時代、青年時代の2人の俳優はサッカーシーンも含めて好演。スウェーデンのホテルのロビーにいる客として、ペレ本人がチラリと顔をみせている。

【50点】
(原題「PELE: BIRTH OF A LEGEND」)
(アメリカ/ジェフ・ジンバリスト、マイケル・ジンバリスト監督/ケヴィン・ヂ・パウラ、ディエゴ・ボネータ、コルム・ミーニイ、他)
(サクセス・ストーリー度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。