トランプ正式指名阻止に向けこの男が動く?

安田 佐和子

ジョン・ケーシック氏と言えば、米大統領選に立候補し5月4日に選挙活動の中止を決めたオハイオ州知事です。予備選では不動産王ドナルド・トランプ候補をはじめ、テッド・クルーズ米上院議員(テキサス州)、マルコ・ルビオ米上院議員(フロリダ州)に隠れ目立たなかったものの、全国共和党大会を前にその名前がメディアで騒がれつつあります。

きっかけは、ケーシック知事のコメントです。予備選結果に拘束される党大会での投票をについて、ワシントン・ポスト紙に対し「代議員は責任と良心を天秤にかけ、どうしたいか決断しなければならない」と発言。いわば、反トランプ体制が目指す”良心条項”の適用に支持を示したと言えます。ケーシック知事の広報担当は、この言葉をめぐり「知事はトランプ候補の勝利に疑問を呈するような厄介な問題を引き起こす意志はない」と応じるものの、ケーシック陣営から5日に送信されたeメールからはケーシック知事に潜む野心が垣間みれます。

eメールの内容には、民主党の正式指名が確実視されるクリントン候補とケーシック知事の支持率が盛り込まれていました。クリントン候補とトランプ候補との一騎打ちでは48%対43%で、トランプ候補に勝ち目はほぼありません。ところが、ケーシック知事であれば50%対42%でクリントン候補を上回り本選を制する余地が大きいのです。英国民投票後の6月27日から7月3日にかけて実施されたNBC/サーベイモンキーの世論調査では、ポール・ライアン米下院議長や2012年の共和党大統領候補だったミット・ロムニー氏より高い支持率を誇ります。

ライアン下院議長より誰より、ケーシック候補がクリントン候補に勝利する可能性が高いという結果に。


(出所:NBC

ちなみに、予備選から離れる際に”suspend(中止)”という言葉を用い”withdraws(撤退)”という表現を避けていました。ゆえに、選挙活動を”再開”してもおかしくないのです。

そもそも、ケーシック知事はトランプ候補に支持表明していません。副大統領候補に名前が挙がった当時も、受け入れる可能性を否定しました。そもそも予備選は同知事が勝利したため、オハイオ州が党大会での投票でトランプ候補支持に回る必要もありません。

党大会の開催地はクリーブランド、つまりオハイオ州。ケーシック氏にとってはお膝元ですから、コンベンションで復活するには格好の舞台となります。今のところケーシック知事は党大会に出席するか回答を控えていますが、現地にはとどまる予定です。

ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事は、ツイッターで反トランプ派の神輿に担がれる意志がないことを表明していました。クルーズ候補が5月に呆気なく戦線離脱したように1970年前後生まれの若手が尻尾を巻くなか、1952年生まれのケーシック候補が党大会での波乱に一役買うのか。同候補に、熱い視線が注がれます。折しも、テキサス州ダラスで立て続けに起こった警官による黒人男性射殺を受けた抗議活動が元で、警官銃撃事件が発生。何より共和党として、人種対立を煽り全米ライフル協会の支持を受けるトランプ氏を正式指名した場合のリスクを計算してきてもおかしくはない。反トランプ体制には少なくとも、追い風が吹いているのではないでしょうか。

(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。