「シンギュラリティ」という言葉をご存じだろうか。「人工知能が人間の知能を超える」という意味だ。2045年には、その日が来ると予測されている。そして、そのときには人間の仕事の99%が、人工知能に奪われるという。人工知能は、先日、ここで書いたiPS細胞とともに、僕がいま、もっとも興味を持つことだ。
いま、人工知能は「第三のブーム」といわれている。キーワードは「ディープ・ラーニング」だ。ディープ・ラーニングとは、簡単にいえば、人工知能が自ら学習を重ねて、高度に成長していくことだ。人工知能の囲碁ソフトが、今年の3月に韓国のプロ棋士を破ったことは記憶に新しい。これはディープ・ラーニングを駆使したからだ。
人工知能が人間の脳を超え、僕たちの仕事を奪っていくなどということが、近い将来、起きるかもしれない。科学技術は、人を幸せにするために進歩するものだ。それが、僕たちを困らせたり不幸にするのでは、本末転倒ではないか。
iPS細胞の技術が進歩し、人工知能が進化したら、「人間」がこの世界に存在することの意味すらも変わってしまうのだろうか。再生医療がこのまま発達していけば、人間は死ななくなるかもしれない。人工的な「脳」が進化を遂げた結果、人は仕事を奪われ、さらに、人の存在も必要なくなるかもしれない。もし、そうなったら、本当に恐ろしい時代が来ると僕は危惧している。
先日、世界初の人工知能型教材Qubena(キュビナ)を開発した株式会社COMPASSのCEOである、神野元基さんを取材した。「人工知能」が、生徒に問題の解き方を教えてくれるというのだ。しかも、解き方を間違えたら、どこをどう間違えたかまで教えてくれる。
これでは、もう教師が要らなくなる、まさしく人間の仕事が奪われるのではないかと、神野さんに疑問をぶつけた。すると神野さんは、「問題の解き方そのものではなく、人間の生き方や、もっと大事なことを生徒に教える時間ができるはずだ」と答えたのだ。
なるほど、かつてさまざまな機械が開発され、単純労働を中心に、一定の割合の仕事が奪われていった。しかし代わりに僕たちは、サービス業をはじめ、さまざまな産業を生み出し、雇用も創出してきたのだ。
人工知能ができる仕事は、単純労働を超えた。いま僕たちが担っている一定の仕事を、人工知能は「奪う」かもしれない。それは介護であったり、経理であったり、営業であったり、さまざまな分野にわたるだろう。しかし神野さんがいうように、それでも、ほかにすべきことはたくさんある。人間は、新たな仕事を生み出していくはずだ。
人工知能とiPS細胞について、これからも僕はどんどん取材していく。80歳を過ぎた僕だが、人間の未来はいったいどうなるのか、好奇心は尽きない。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年7月11日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。