久しぶりに著名な英人エネルギーコラムニストのニック・バトラーが興味深いブログを書いている。”Are we approaching peak energy demand?” (July 11, 2016 5:20) というタイトルのものだ。
筆者は不勉強にして知らなかったのだが、Enerdataというコンサル会社が毎年、分析レポートを発表していて、今年が20年目にあたるそうだ。
筆者の興味にしたがい、ニックのブログの要点を紹介すると、次のようになる。
世界全体のGDP合計の80%以上を占めるG20諸国の実態を分析すると、GDPの成長率とエネルギー消費の伸び率とは次のようになっている。
GDP エネルギー消費
2015 +2.8% +0.5%
2014 +3.4% +1.1%
2013 +3.7% +2.1%
エネルギー強度(Energy Intensity、たとえばGDPを1ドル生み出すのに必要なエネルギー量)が年々高まっていることが見てとれる。
各国にはそれぞれ特有の事情があり、同列に論ずることはできないが、たとえばEUを取り上げれば、過去10年間で、一次エネルギー消費量は11%減少し、石油は17%減少、天然ガスは20%も減少している。中国では、データの信憑性の問題はあるが、景気後退によるエネルギー消費伸び率の鈍化のみならず、産業構造の変化、エネルギーの効率的使用の伸長などに過去3年間、エネルギー消費の伸び率は鈍化している。石炭が主力。米国のエネルギー消費量は過去10年間ほぼ横ばい。インドは最近ではエネルギー消費増の牽引役となっている。低コストの石炭が主力で消費量は増加しており、他国の消費減を打ち消す形で、G20のエネルギーミックスの中で石炭が最大シェアーを維持している大きな要因となっている。
これらの事実は、エネルギー需要は価格が低化すれば増加する、という標準的な仮定(ニックは明言していないが、BPやエクソンの長期予測などを念頭においているものと思われる)が正しくないことを示している。現実はもっと複雑だ。たとえば各国が設けている補助金(たとえばインド)や課税(たとえば英国)により価格変動の影響は薄められている。
成長率とエネルギー消費量の相関性に影響を与える主因は技術革新だ。
まだスマートメーターやスマートグリッドの効果は目に見えるほどではないが、将来まちがいなくエネルギー消費の効率化およびエネルギー強度の改善に資する。
世界をみると、人口は今後も増加し、現時点で世界市場に組み込まれていない(すなわち、たとえば電気や化石燃料を使えない)人々が10億人以上もいるので、エネルギー消費量の増加要因となるが、OECD諸国の消費減がこれらを相殺し、次の10年間の間にはエネルギー需要量はピークを迎えるだろう。
なるほど。
10年以内にピークを迎える、と読んでいるのか?
BPもエクソンも、向こう20~25年間の間にエネルギー消費は25~34%増加する、つまりピークが来るとしても数十年後、とみているのだが、どちらの予測が正しいのだろうか?
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年7月11日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。