IoTはおじさんだけの発想では対応できない

今日は研究の打ち合わせを兼ねてパナソニックさんのお台場にあるショウルーム、Wonder Life-BOXに行ってきました。

ここは「パナソニックが考える、「2020年~2030年のより良いくらし」をひと足先にご体感いただく施設」というだけあって、まだ実用化していない研究開発段階の製品や技術を見ることができる、大変貴重な場所でした。

一般公開もしていますので、ぜひ行ってみてください。

パナソニックさんですから、展示は家や生活に関係したものが中心です。例えば未来の家での暮らしを再現した展示では、説明員のおねえさんから、「ミリ波のレーダーを使って、睡眠中の心拍数など体調を布団越しにモニタできます」と教えてもらい、びっくりしました。

IoT=Internet of Thingsという言葉のように、これからは社会の至る所にあるものやサービスがIT化していきます。

応用分野は医療、家電、交通・運輸、農業、気象、電力、社会インフラ等々。

今までITとは別だと思われた分野でもセンサによってデータが収集、解析され、実世界にフィードバック(アクチュエーション)される。

そうすると、決定的に問題になるのは、ITやエレクトロニクスの技術者では、技術をどのように使ってサービスに繋げれば良いのかわからない、何を開発すべきかもわかりにくくなるのです。

例えばパソコンを開発していた時には、高速化、低電力化(バッテリーの長寿命化)、軽量化といった技術目標の方向性を見極めるのは、それほど難しくありませんでした。

あるいは液晶テレビを大画面化、低コスト化するとか、イメージセンサを高画素化する、メモリを大容量化するというのも、わかりやすい目標ですね。

こうした目標設定が簡単だった時代では、おじさん、と言うと語弊があるかもしれませんが、男性の同じような経験を積んだエンジニア中心の開発でもさほど問題にならなかったのかもしれません。

ところが、IoTでは先ほど述べたように、技術開発の目標を設定する時にも多様な経験が必要ですし、開発チームのメンバのバックグランドも多様性が必要になります。

端的に言って、現在の大手メーカーのように、理工系の大学院・大学を出た男性ばかりが集まり、新卒入社から何十年も同じような職場に居る男性のエンジニア集団だけでは、対応できなくなっているのではないでしょうか。

パナソニックのショウルームでは、実用化前の最先端の技術を展示して、どれが実際に消費者に受け入れられるのか、調査のためにも展示を使っているようで、これはなかなか良いアプローチだと思いました。

開発陣だけでは将来のニーズがわからないのならば、ショウルームで直接消費者の声を聞けば良い、ということです。

また最近、電機メーカーに限らず、色々な業界で、女性社員が提案した商品やサービスが当たった、と聞くようになりました。

特に女性向けのサービスでは、おじさん中心の経営陣には理解されず、女性の消費者に後押しされることで、ようやく社内で認められるようになった、というわけです。

もはやIoTのサービスなどは、単線路線のキャリアを進んだ、同じようなバックグランドのおじさんたちに優位性などないのでしょう。

私も十分におじさんの一人ですが、学生と比べても、IoTの将来を見通すという面では、自分が優れていると考えてはいけないのでしょう。

かつて仕事で成功した方で、昔話を自慢する方がいますが、過去の成功体験がもたらすプラス面もあるでしょうが、柔軟な発想をするための足枷になるマイナス面の方が大きいのかもしれません。

自分も過去の成功体験にすがるのではなく、過去は振り返らず、常に未来を考え続けるおじさんでありたいと思います。


編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2016年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。