クーデター騒ぎのトルコは石油ガス供給の重要ルート

「トルコでクーデターか」という報道に接したとき、最初に頭に浮かんだのが掲題だった。

トルコの地政学的位置は、欧州向けロシア産ガスの輸送路に位置するウクライナよりはもっと重要だ。トルコ経由の石油やガスの輸送量がどの程度あるのか、すなわちいったん事が起こったら世界市場にどれだけの影響があるのか、データを整理してみようと思っていたら、FTのEd Crooksが早速報じてくれた。”Turkey holds crucial places on oil routes” (July 16, 2016 2:19am) という見出しがついている。いつもの通り、筆者の興味にしたがって記事の要点をまとめると、次のとおりとなっている。

米国政府のデータによると、2013年には290万B/Dの(ロシア等の)原油および石油製品が黒海から地中海に抜けるトルコ海峡(原文ママ)を通過している。これは世界全体の供給量の3%を占めている。

さらにアゼルバイジャンとイラクからの石油パイプラインが通っている。合算能力は270万B/Dだが、実際の通油量は、生産量が減少しているアゼルバイジャンから現状72万B/D、ときおりパイプラインが攻撃されるイラク(キルクーク)からは60万B/D程度となっている。

ガスに関しては、BPとパートナー会社が2013年に、能力160億立米/年(石油換算約29万B/D)の2本のパイプラインをイタリーまで建設することに合意している。南欧州ガス回廊と呼ばれるこのP/Lの完成は2019年末の見込み。アゼルバイジャンのシャーデニス・ガス田から供給だ。

さらに(政治問題化して開発段階に移行することが遅れている)イスラエルのリヴァイアサン・ガス田からの(パイプライン)輸送も政府と民間企業のあいだで協議されている。

コロンビア大学のグローバル・エネルギー政策センターのJason Bordofは、トルコは石油・ガスの「きわめて重要な輸送上のハブ」であり「もし、供給が阻害されると石油市場に重大な影響を与える」。米政府は欧州向けトルコ経由のガス供給案を強く支持している。「供給を多様化することは、想定外の事態が発生した場合のエネルギー安全保障に大きく寄与する」と述べている。

なるほど。
非常に重要な位置にあるな。

記事では指摘されていないが、アゼルバイジャンから地中海のトルコ・ジェイハンまでには、120万B/D能力のBTC原油P/L(2005年稼働)以外に、約70億立米/年(石油換算約13万B/D)のSouth CaucasusガスP/Lが2007年から稼働している。記事にあるのは、シャーデニス・ガス田の第2次開発を促進し、送ガス量を約3倍の200億立米/年(石油換算約36万B/D)に拡大して、イタリーに繋げる計画だ。

さらに黒海を横断して、160億立米/年(石油換算約30万B/D)のブルーストリームP/Lもロシア産ガスを輸送している。

また、イスラエルのハイファ沖合47kmのところで2010年に発見されたリヴァイアサン・ガス田は、約19兆立米(石油換算約36億バレル)の埋蔵量を保持していると報道されている。開発から生産に移行した後の販売ルートとして、トルコ経由も俎上に上っているようだ。

このように、石油ガス輸送に関するトルコの地政学的位置はきわめて重要だ。したがって同国の政治的安定は、世界のエネルギー安全保障上きわめて重要な問題なのだ。

クーデター失敗の報も流れているが、今後の動向には要注意だな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年7月16日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。