アメリカとの決別

米国と手を切れ、というのではない。鳥越俊太郎氏のように「中国が万一、軍事攻勢をかけてきたら、自衛隊が防衛し、侵略に対しては日本国民が立ち上がる。米国に助けてもらう必要はない」などと、粗雑でいい加減なことを言う気はさらさらない。

だが、多くの日本人は「イザとなったら米国に助けてもらえばいい。自分で戦ったり、米国と一緒に戦うのは危ない」と思っている。だから、メディアがアンケート調査をすると、つねに集団的自衛権行使の反対者が賛成者を上回るのだ。

衆参両院で憲法改正ができる3分の2の議員数が獲得できそうな今、憲法9条改正を発議できる基盤が整ったが、憲法改正ではそれを国民投票にかけねばならない。

すると、英国で議会の多数派はEU(欧州連合)残留を望んでいるのに国民投票によってEUを離脱したように、議会の多数派が9条改正を望んでいても、国民投票によって9条は改正しないということになりかねない。安倍首相が9条改正に極めて慎重なのはそのためだ。

だが、米戦略家のエドワード・ルトワック氏が「中国4.0」(文春新書)で示しているように、米国はもはや尖閣諸島のような島嶼防衛までは日本の面倒を見ない。「自分でやれ」という姿勢をはっきりさせて来ている。

日本は日米安保条約を強化しつつも、本腰を入れて自力防衛に努めねばならない時代となったのだ。

それがアメリカとの決別である。軍事・安全保障面での「アメリカとの決別、相対的独立」である。

その覚悟が今の日本人にできていない。安倍政権がはっきり言わないからだ、ともいえる。だが、明確に言えば「そんな危ない政治をする気か?」と支持層が離れて行く危険がある。だから、あいまいにしておく、というジレンマ状況がずっと続いている。

しかし、米国にも「日本は島嶼防衛は自分でやれ」と言いつつ、日本の軍事的独立を厭い、ずっと日本を隷属状態に置いておきたい、というずる賢い意思、スケベ根性がある。

そのため高度成長期以来、米国は日本が軍事技術の自力開発をやろうとすると、必ず反対し、その動きをつぶしてきた。日本の政治家もそれに対抗できていない。石原慎太郎氏と自衛隊元空将の織田邦男氏が雑誌「正論」7月号で対談し、石原氏がこう述べている。

政治の無作為によって日本メーカーの地盤沈下は著しいという気がします。各国が技術開発でしのぎを削る中で、このままでは大きく国益を損なうことになる。……日本はアメリカの暗号、敵味方識別装置やGPS(全地球測位システム)を使っていますから、アメリカがGPSモードを変えただけで自衛隊は行動できない。日米安保条約が日本に対する瓶のフタとされる現実も変えて行く必要があります

日本は米国に隷属を強いられているだけではない。中国はその動きをよくにらんでおり、織田氏は次のような興味深い例を出している。

日米間に中国が仕掛けているのがインターオペラビリティ(相互運用性)で、日米の兵器をまったく同じにしろと……アメリカに強く言っています。それが進めば進むほど日本は今以上にアメリカに雁時搦めになる。したがって中国としてはアメリカを相手にさえすれば日本はどうにでもできるという戦略です

そういう中国の意見を尊重する米政府関係者もいるという。米国にとって自分の安全さえ保てれば、日本などどうでもいいからだ。

米国の意志に従って、ここまで自力開発が遅れた日本。今から開発が間に合うのか。織田氏は「政治の意思次第でできる」という。

国産開発や共同開発は自由に改良できるメリットがあります。実は(国産機の)F2ができた当初、(体験搭乗してみて)「なんだ、ちんけだな」と思いました。しかし、(米国)のF15のようなライセンス生産と違うのは、常にアメリカの許可なく自前で回収できることで、どんどん性能アップできるんです。実際、F2はロールアウトして二十五年以上経っていまや大した高性能機に仕上がっています

石原氏は言う。

軍事的に自立できて国家は始めて自立できる。景気対策のためにも自衛隊の戦闘機開発は有力な公共事業になるはずです

参院選が終わって安部首相は秋の補正予算で総事業費10兆円の財政出動と言っている。だが、この中に先端的な防衛事業はほとんで入っていない。戦闘機開発など、先端技術の開発は国ができる大きな経済成長戦略(アベノミクスの3本目の矢)になる。

安倍首相は、そこへの「政治意思」をはっきり示す時期に来たと思うのだが。