テロとの戦いは今後10年間は続く

フランスの著名な社会学者、ファラード・コスロカバー(Farhad Khosrokhavar)教授は独週刊誌シュピーゲルとのインタビューに答え、「犯人(31)がイスラム過激派テロリストか、精神的病の持ち主か目下不明だ。フランスのオランド大統領が早い段階でテロと断言したのには驚いた。犯人はトラクターをそのテロの道具として利用したが、イスラム過激派組織『イスラム国』(IS)が既に提案していたやり方だ。その意味で、犯人とISのつながりが考えられる。その一方、犯人は簡単な鉄砲だけしか所持していなかった。彼がテログループと接触していたら、機関銃などを簡単に入手できたはずだ」と指摘、犯人がテログループとは関係がない一匹狼的な存在、ローンウルフで精神的病にあった人間の可能性が排除できないという。

同氏によれば、ニースはパリに次いでイスラム過激派が多くいる。ニースには治安関係者が名前を握っている過激派だけでも60人はいる。シリア内戦から帰国したイスラム過激派も多数という。

フランスはサッカー欧州選手権(ユーロ2016)のホスト国として優勝こそできなかったが、久しぶりに国民は心を休め楽しむことができた。幸い、大きな事件もなかった。そして夏季休暇がいよいよ始まったばかりだった。
フランスは過去、18カ月間、非常事態下にあった。オランド大統領が今月26日で非常事態宣言を終了すると表明した数時間後にニースのテロ事件が発生した。オランド大統領は改めて非常事態宣言の継続を宣言せざるを得なくなったわけだ。テロとの戦いを世界に向かって宣言したオランド大統領にとっては面子を失った瞬間だ。

フランスのカズヌーブ内相は、「犯人はイスラム過激派と接触し、急速に過激化したのではないか」とみている。ISは16日、「わが戦士が我らの願いに呼応してテロを実行した」と犯行声明を明らかにしている。なお、犯人の家族は「彼は宗教には全くタッチしていなかった」と述べ、なぜ犯行に走ったのか分からないと語っている。犯人とイスラム過激派テロ・グループとの関係は今後の捜査を待たないと断言できないだろう。

<過去18か月間のフランスでのテロ事件>

2015年1月7日―9日
武装した2人のイスラム過激派テロリストが7日、パリの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」本社を襲撃し、自動小銃を乱射し、編集長を含む10人のジャーナリストと、2人の警察官を殺害するというテロ事件が発生した。その直後、別の1人のテロリストがユダヤ系スーパーマーケットを襲撃し、4人のユダヤ人を殺害した、3人のテロリストは9日、治安部隊との衝突で射殺され、多くの死傷者を出した2つのテロ事件は幕を閉じた。

8月21日
25歳のイスラム過激派がパリとブリュッセル間の急行列車でテロを計画していたが、旅行客が取り押さえて無事だった。

11月13日
パリのバタクラン劇場や喫茶店などでイスラム過激派テロリストによる同時テロ事件が発生、130人が死亡した。

2016年6月13日
パリ近郊マニャンビルで警察官夫妻がISテロリストによって殺害された。

7月14日
フランス革命記念日の日、フランス南部ニースの市中心部のプロムナード・デ・ザングレの遊歩道付近で発生した。慣例の花火大会が終了した直後、チュニジア出身の331歳の犯人がトラックで群衆に向かって暴走した。犠牲者は少なくとも84人。

なぜフランスでイスラム系過激派テロ事件が多発するかについて、テロ問題専門家の意見をまとめると、①フランスがシリア、イラクでの戦闘で欧州の中で最も積極的に関与していること、②フランスの過去の北アフリカでの植民地政策のつけ、③フランス居住のイスラム教系住民の社会的統合問題、雇用状況が悲惨であること、などがその主因として挙げられている。

テロ事件が多発する中、フランス国民の中にもテロとの戦いに疲れが見えてきたという。「米国同時多発テロ事件からまもなく15年が過ぎるが、米国は依然、テロとの戦いを継続せざるを得ない状況だ。同じように、欧州でもテロ戦争は今後、10年以上は続くと覚悟しなければならない」と助言するテロ問題専門家がいるほどだ。


 

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。