ソフトバンクのあくなき追求

岡本 裕明

アローラ氏が在任中、ソフトバンクは所有する投資案件を次々売却し、現金で2兆円ほどを流動化させました。私はその頃、アメリカ ヤフーの買収が頭にあるのではないかと書かせていただきました。一方、アメリカの投資家は苦境に陥るスプリントに親会社のマネーが流入するという淡い期待もあり、スプリントの株式は大きく買い上げられました。

昨日の英国、アーム ホールディングスを日本企業による史上最高価格となる3.3兆円を投じて買収すると発表した際にうーんと思わず唸ってしまいました。「そうきたか」であります。アームという会社はほとんどの人になじみのない会社ではないでしょうか?半導体の設計に特化して工場などがあるわけでもありません。しかし、世の中のスマホはこのアームの設計に頼らないとアップルもサムスンも動かないとなれば「おっ」ということになるのでしょう。

正直、私もこの会社は知りませんでした。が、記事を読み進めていくうちに孫正義マジックが読み解けた気がします。まず、孫氏はこの会社をキャッシュで買い取ります。一部、ブリッジローンを組むようですが、ブリッジですからつなぎ融資、つまり、一時借用で実質的には2兆円の投資回収資金と手元資金を合わせた4.5兆円から買収します。

次にアーム社の財務諸表を見るとなるほどと思えるのは借入金がほとんどないのであります。つまり、頭脳の会社であって工場などの「カラダ」がないため、借入金体質にならないのでしょう。これは確かに良い会社であります。

英国企業らしい頭脳を売るスタイルは私も以前から注目していましたが、孫正義氏の先見の明には恐れ入るものがあります。また、決め方が早いことも特筆すべき点でしょう。アーム社の会長に買収を申し入れたのは2週間前と言いますからまさに英国離脱問題で大騒ぎしているころ、休暇中のアームの会長にトルコのレストランで買収を打診するという離れ業と即決する能力にただただ脱帽であります。

私はこの買収が正しいかどうか、コメントする立場にありません。なぜなら知らなかった会社ですから。ただ、一つ言えることは孫正義氏のスタイルはアローラ氏にはできない独特の嗅覚があると言えます。アローラ氏のスタイルは投資とはタネの段階で安く買い、花が咲くころに高く売るというスタンスが見えています。なぜならアローラ氏の資産がほぼそれで築き上げられたからであります。

一方、孫氏の投資のスタイルは目先すぐに利益になるとは思えないものをどんと買うとところに強みがあると思います。酷評されるスプリントもキャッシュフローは回り始めています。孫氏は損益計算書を見るのではなく、キャッシュフローをみて買っているような気がします。アーム社も現在のキャッシュフローは出入りはありますが、かなり改善できるように見えます。製造原価は売り上げの4%しかなく、利益率は42%にも上ります。

ソフトバンクに関して投資専門家の評価は割れますが外資系の評価は借金大魔王であるこの会社を投資不適格としています。ただ、企業の価値を損益計算書で見るのとキャッシュフローで見るのは大いに違うわけで孫氏の場合にはキャッシュフローがモノをいう会社であります。

私の会社も損益計算書は大したことはありませんがキャッシュフローがワークしています。企業によっては売り上げが○年連続増、経常利益が△年連続増といった表現をもって「優良会社」としての合格証を貰うこともありますが、最後はキャッシュフローがモノをいうのは経営者ではないとわかりにくいものがあります。特に大型投資をすると償却が大きくなり損益はあまり格好良い数字にならないのですが、償却はキャッシュフローに影響しませんからこの部分をきちんと見ると本当の意味で「稼いでいるかどうか」わかるものです。

もう一つ、孫氏のセンスは日本で数多くの企業が攻めあぐんでいるIoTをわずか2週間の交渉で一瞬にして手に入れたという点でしょうか?我々の生活に今一つ実感がわかないIoTですが、それは冷蔵庫の中が判るといったあまりにも身近な話題から入りすぎたからかもしれません。IoTは結局全てがつながるというお題目の元、個人的にはビックデータのビジネスだと思っています。そのデータから将来を予想し、先手を打つことを目指ししているとすれば孫氏の今回手に入れたアームという会社はとてつもない潜在能力を持っている気がいたします。

ソフトバンクをボロクソにいう方は結構多いかと思います。私も好きかどうかは別判断ですが、見習うべき点は見習うべきだと思っています。12兆円の借金をうんぬんするコメントもありますが、日本の銀行は貸し先がなくて困っているのです。そんな中、こんなにホイホイ借りてくれるお客様は「神様、仏様、孫正義さま」なのではないでしょうか?

日本企業が攻める姿勢をなくしては終わりです。ですが、草食が増えたのも日本です。これが刺激になって日本企業がまた、攻めの姿勢を強めてくれればよいと思っています。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、みられる日本人 7月19日付より