独英首相会談は和気藹々?

もちろん、会った瞬間、つかみ合いの喧嘩が始まるとは考えていなかったが、こんなに和気藹々とした雰囲気で会談し、記者会見で双方が笑みを交わし合うなどとは想像していなかった。

英国のメイ新首相が20日、欧州連合(EU)離脱決定後、初の外遊先にドイツを選び、ベルリンでメルケル首相と会談、英国の離脱交渉の行方について意見交換した。

同日の夜のニュース番組で視たが、記者会見ではメルケル首相が非常にリラックスしていたのには少々驚いた。“EUの盟主”としてドイツの重荷は益々大きくなり、メルケル首相が笑顔を見せる機会は少なくなってきた。そのメルケル氏がメイ氏との記者会見では終始笑顔が絶えなかったのだ。

一方、メイ首相はEUの大先輩でもあるメルケル首相に敬意を払って礼儀を尽くす一方、“第2のサッチャー”ともいわれるその指導力を発揮しながら堂々と振る舞う姿はとても印象的だった。

国民投票でEUからの離脱が決定した直後のキャメロン前英首相とEU指導者たちの間の会話を思い出してほしい。キャメロン氏は予想外の離脱決定に落胆し、その声も張がなかったのは致し方がないが、そのキャメロン氏に対し、ユンケルEU委員長やメルケル首相は、「英国国民の決定を尊重する。英国が速やかに離脱の意向をブリュッセルに通達し、離脱交渉を開始することを願う」と述べる一方で、「英国は離脱するまでは加盟国としての義務を完全に履行し、加盟国としての利点だけを享受する考えは絶対に受け入れられない」と述べているのだ。

数日前まで重要な加盟国だった英国の首脳に対し、ユンケル委員長もメルケル首相もかなり強い語調で話していた。もちろん、英国の離脱決定が他の加盟国に波及することを阻止するという政治的な狙いがあったからだが、「政治の世界って、冷たいな」と感じさせられたほどだ。

だから、というわけではないが、メイ首相がEUの女性指導者メルケル首相と会談すると聞いた時、会談はどうなるだろうかと他人事なら心配せざるを得なかったわけだ。

メルケル首相曰く、「英国は離脱の準備のため一定の時間が必要だ」と述べ、離脱交渉は来年の年明けから始めることに理解を示した。メルケル首相は英国の離脱決定直後、「離脱決定の通達が届くまでは一切の前交渉はしない。離脱通達が迅速に行われることを期待する」と述べていた。そのメルケル氏が「離脱の準備のためには時間が必要」と英国の立場に理解を示したというのだ。

メルケル首相とメイ首相との首脳会談でどのような話が行われたかは分からないが、記者会見の内容から推測できることは、メイ新首相はメルケル首相の理解を勝ち取ったといえるだろう。

メルケル首相とメイ首相は会談テーマが難問だったが、和気藹々の雰囲気で会談できたのは、両首相が聖職者の家庭の娘として育ち、結婚後、子供がいないなど、共通点があるからかもしれない。

もちろん、両首相の笑顔に騙されてはならないだろう。リスボン条約50条に基づく離脱交渉は双方にとって初体験であり、国の利害が密接に関わるテーマだ。それだけに交渉はハードだろう。英国がもはやEUのファミリーでなくなったため、メルケル首相はメイ首相をファミリーの一員として接することはできないので、友人として親交を温めことになるわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。