ドイツで何が起きているのか?

ドイツで過去7日間(7月18日~24日)、銃乱射事件、難民(申請者)によるテロ、殺人事件が続けざまに起きている。先ず、時間の経過に従ってまとめる。

<7月18日(月)>

ドイツ南部バイエルン州のビュルツブルクで18日午後9時ごろ、アフガニスタン出身の17歳の難民申請者の少年が乗っていた電車の中で旅客に斧とナイフで襲い掛かり、5人に重軽傷を負わせるという事件が起きた。犯行後、電車から降りて逃げるところを駆け付けた特殊部隊員に射殺された。少年の犯行動機、背景などは不明。目撃者によると、少年は犯行時に「神は偉大なり」(アラー・アクバル)と叫んでいたという。
バイエルン州のヨハヒム・ヘルマン内相が19日明らかにしたところによると、少年の部屋から手書きのイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の旗が見つかったという。少年は1年前に難民としてドイツに来た。保護者はいなかった。ISはその直後、少年の犯行を称賛している。

<7月22日(金)>

ドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで22日午後5時50分ごろ、135店舗が入ったミュンヘン最大のオリンピア・ショッピングセンター (Olympia-Einkaufszentrum)周辺で、9人が射殺され、27人が負傷するという銃乱射事件が発生した。
ミュンヘンのフベルトス・アンドレ(Hubertus Andra) 警察長官が23日午前、記者会見で明らかにしたところによると、(1)犯人はミュンヘンに住む18歳のイラン系のドイツ人、(2)犯人は犯行現場から少し離れた場所で自殺していた、(3)犯人は拳銃(グロック17)を所持、(4)犯行動機は明らかではないが、イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)との繋がりは見つかっていない。
犯人は1年前から犯行を計画。過去の大量殺人事件に強い関心を注ぎ、バーデン・ヴェルテンブルク州ヴィネンデンで発生した銃乱射事件(2009年3月11日)の犯行現場を訪れ、写真を撮ったり、ノルウェーのアンネシュ・ブレイビク容疑者(37)がオスロの政府庁舎前の爆弾テロと郊外のウトヤ島の銃乱射事件で計77人を殺害した事件に関心を寄せ、ブレイビクと同じように犯行前にマニフェストをまとめている。
ミュンヘン警察当局は現在、「犯人とISとの関係はなく、精神的に鬱状況下で大量殺人に走った可能性が高い」という。24日の捜査段階では、犯人は社会フォビアに悩み、鬱で病院の治療を受けていたことがあったことが確認された。

<7月24日(日)>

(1)ドイツ南部バイエルン州のアンスバッハで24日午後10時10分ごろ、シリア難民の男(27)が現地で開催されていた野外音楽祭の会場入り口で持参した爆弾を爆発させた。地元警察当局によると、男は死亡、少なくとも12人が負傷し、そのうち3人は重傷。
男は2年前に難民申請を提出したが、昨年申請は却下された。男は野外音楽祭に入って自爆する計画だったが、チケットを持っていなかったため入場できず、会場前で爆発した。男は過去、2回自殺未遂をするなど、精神的病にかかっていた。音楽祭には約2000人が集まっていた。爆発後、音楽祭は急きょ、中止された。男の自爆がイスラム過激派の自爆テロだったのか、自殺目的の爆発だっかは目下不明。バイエルン州のヨハヒム・ヘルマン内相は、「イスラム過激派の自爆テロの可能性が考えられる」と述べている。

(2)ドイツ南西部ロイトリゲンで24日午後4時半ごろ、シリア人難民申請者の男(21)が知り合いのシリア女性(45)をなたで殺害し、周辺にいた男女2人を負傷させた。男は警察に直ぐに拘束された。警察当局の説明によると、事件はテロとの関連はないという。

昨年1月から今年上半期にかけフランス、ベルギーでテロ事件が多発したが、ドイツではこれまで大きなテロ事件は生じてこなかった。それが18日から24日の1週間、テロ事件、銃乱射事件、自爆事件、殺人事件が立て続けに起きた。

テロと断定できる事件は18日の斧襲撃テロだけ。アンスバッハのシリア難民の自爆事件は、イスラム過激派の自爆テロの可能性が排除できない。後の2件は人間関係が原因の殺人事件と精神的病にあった犯人の銃乱射事件(Amoklauf)だ。
一方、4件の共通点は,(1)難民、移民が直接的、間接的に関与していること、(2)犯人、容疑者は青年たち、(3)犯行がいずれもドイツ南部に集中していた点だ。

18日の斧によるテロ襲撃事件は17歳のアフガニスタン出身の難民、24日ロイトリゲンの事件は21歳のシリア難民申請者の青年、自爆事件は27歳のシリア難民。9人の犠牲が出たミュンヘンの銃乱射事件の犯人は18歳でイラン系のドイツ人だった。犯行はドイツ南部のバイエルン州と南西部のバーデン=ヴュルテンブルク州で起きている。

4件の事件が立て続けに起きたことについて、昨年から今年にかけて100万人を超える難民・移民がドイツに殺到した結果が出てきたのだという指摘がある。犯人、容疑者が難民、申請者、移民出身者であったという事実と、犯行がドイツ南部に集中していたことがそれを裏付けているからだ。バイエルン州で昨年100万人を超える難民がシリア、イラク、アフガニスタンからバルカンルート、オーストリア経由で殺到。同州のゼ―ホーファー州知事はメルケル首相の難民ウエルカム政策の修正を強く要求した経緯がある。

いずれにしても、ドイツ国民はテロの恐怖を肌で感じだしている。一人の中年のドイツ人女性は、「紛争下を命がけで逃げてきた難民に対しては申し訳ないが、われわれは“トロイの木馬”を引き入れてしまった」と述べ、難民の中にイスラム過激派テロリストが紛れ込んでいたと嘆いていた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。