ミュンヘンの銃乱射事件の犯人は18歳の学生だった。イラン系ドイツ人の犯人はグロック17(Glock17)でマクドナルド店の前、オリンピア・ショッピングセンター(OEZ)内で乱射し、9人を射殺した後、自身も頭を撃って自殺した。
犯人はタクシー運転手で生計を立てる両親の家に住んでいた。その学生がどこからグロック17を入手したかが捜査担当官の最初の疑問だったはずだ。
ミュンヘン警察当局が学生の自宅から押収したPCやデジタルカメラを分析したところによれば、犯人が使用したグロック17は登録されていなかった。犯人はインターネット上のダークネット(Darknet)を通じて、使用できないように処理された劇場用のグロック17を買い、それを使用可能に再改造したのではないかという。
ちなみに、グロック17はオーストリア製で警察官や情報機関エージェントなどが使用する自動拳銃で世界的に高品質の拳銃として有名だ。
一方、アンスバッハの場合、27歳のシリア難民は自爆し、同時に少なくとも15人を負傷させた自爆爆弾をどこから入手したのだろうか。彼のリュックサックにはメタル製の釘などが入っていたという。爆発の際、多くの被害をもたらす狙いがあったことが伺える。
難民がイスラム過激派テロ組織『イスラム国』(IS)に忠誠を誓ったビデオが発見されたことから、自爆事件は自爆テロ事件というべきかもしれない。
しかし、イスラム過激派自爆テロと断言するには問題もある。彼は過去、2回自殺未遂し、精神科医のもとで治療を受けていた。同難民を知るパキスタン人は「彼が祈っているところを見たことが無い」と証言している。その意味で、シリア難民は典型的なイスラム過激派ではなかった可能性が高い。
ドイツ連邦政府のトーマス・デメジエール内相は、「イスラム教過激思想と精神的病がミックスしたような状況下で、自爆が行われたのではないか」と受け取っている。一方、バイエルン州のヨハヒム・ヘルマン内相は、「自爆装置をもち、多くの人々が集まる野外音楽祭に出かけたという状況はイスラム過激派自爆テロリストの行動だ」と強調している。
問題は、繰り返すが、27歳の精神的病に悩んでいたシリア難民がどのようにして爆弾を入手したかだ。共犯者がいたのか、それとも自爆爆弾を独自で製造したのか(家宅捜査では爆弾製造用の材料が見つかっている)。
ミュンヘンの銃乱射事件後、ベルリンでは銃の規制強化を主張する声が聞かれる。一方、アンスバッハの場合、難民申請が却下された後も送還されることなく、ドイツに滞在し続けている難民が少なくないという問題が浮かび上がっている。
27歳のシリア難民はブルガリアとオーストリアで難民申請をし、ブルガリアでは受理されている。ドイツ側に説明によると、「男は精神的病にあって、強制送還できる健康状況ではなかったからだ」という。
ところで、イスラム過激テロ事件では最近、一種の“請負キラー”のような性格を有したテロ事件が見られる。イスラム教の信仰、イデオロギー、カリフ制国家を建設するため「聖戦」に参加するといったテロリストが減る一方、家族や氏族のためにテログループから経済的支援を受ける引き換えに、テロを行う活動家たちが増えてきているのではないだろうか。
アンスバッハの例を考える。彼は麻薬犯罪で逮捕されたことがある。麻薬購入のため金が必要だった。そのうえ、彼は過去2回、自殺未遂している。また、彼には犯行12日前にブルガリアへの強制送還決定が下っている。人生の意味を失っていた27歳の彼は自爆テロを行うことで自身の人生に意味を与えて決着をつけようとしたのではないか。すなわち、イスラム過激思想云々は二次的な理由に過ぎなかったのではないか。彼に資金と爆薬などを提供した本当のテロリスト(共犯者)が潜んでいるのではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。