フランシスコ法王は27日、ローマからポーランドの古都クラクフで開催中の第31回「世界青年集会」(WJT)に参加するため、ポーランド入りした。バチカン放送によると、WJTには189カ国、35万人以上の青年たちが参加している。
フランス北部のサンテティエンヌ・デュルブレのローマ・カトリック教会で26日午前、2人のイスラム過激派テロリストが神父の首を切って殺害するというテロ事件が発生したばかりだ。それだけに、27日から始まったローマ法王フランシスコの5日間のポーランド訪問の安全問題が懸念されている。
法王はWJTのイベントの他、ポーランド南部チェンストホヴァ市のヤスナ・グラ修道院にある聖画「黒い聖母」を訪れ(28日)、その前で祈り、29日には、ナチス・ドイツ軍の強制収容所アウシュビッツを訪問する(ローマ法王がポーランドを訪問したのは過去、11回ある。そのうち、故ヨハネ・パウロ2世が9回、ベネディクト16世1回)。
ローマ法王はポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領、ベアタ・シドゥウォ首相ら同国指導者たちと会見した際、難民の受け入れを強く要請している。右派与党「法と正義」が主導するシドゥウォ政権はハンガリーのオルバン政権と同様、シリア、イラクなどからのイスラム教難民の受け入れを頑なに拒否している。フランシスコ法王は、「不安を乗り越えるために少しの賢明さと慈愛が求められる。誰でも安全で幸せを求める権利がある。この戦争を乗り越えて行くには、国際間の協力が不可欠だ」と諭している。
そのうえで、南米出身の法王はポーランド国民にキリスト教信仰の重要さを確認し、「民族の伝統、アイデンティティを失ってはならない」と警告を発している。それに先立ち、ポーランドのクラクフ大司教のスタニスワフ・ジーヴィッシュ枢機卿は26日のWJTの開会式で「WJTが信仰に改めて覚醒できる機会となることを願っている」と述べている。ポーランドでも民主化後、世俗化が進む一方、カトリック教会の影響力が弱まってきている。
ところで、フランシスコ法王はローマからポーランドへの飛行途上、フランス教会神父殺害テロ事件に言及し、「世界はもはや安全でなくなったという。正しく表現すれば、世界は目下、戦争下にあるからだ。それは宗教戦争ではない。利益争奪戦であり、金、地下資源の奪い合いであり、民族の覇権争いだ」と指摘している。
欧州ではフランス、ベルギー、ドイツでイスラム過激派テロ事件が多発し、26日には遂に仏カトリック教会の神父が殺害された。テロは欧州だけではない。バングラデシュのダッカのレストランで襲撃テロ事件が起き、7人の日本人を含む20人がイスラム過激派テログループの犠牲となったばかりだ。テロだけではない。様々な凶暴な殺人事件が起き、人種問題は再熱し、ワイルドな資本主義社会では「貧富の格差」が益々拡大している。グローバルな世界で伝統的な生活、価値観がその生命力を失い、多様化という言葉で混乱が生まれている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が公表したところによると、昨年末時点で、武力紛争などで国外に逃れた難民や難民申請者、国内で住居を追われた避難民の総数が6530万人に上ったという。フランシスコ法王は多分、それらを全部含めで「世界は今、戦争下にある」と語ったのだろう。
それでは、誰が戦争を始めたのか。われわれは加害者か、被害者か。どうしたら戦争を終焉させることができるのか。フランシスコ法王はそれらの問いに誰にも理解できるように回答できるだろうか。法王が強調したように、宗教戦争ではないだろう。しかし、世界が戦争下にあるとしたら、宗教指導者は責任を免れないのではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。