【映画評】ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆

ヒマラヤ8,000メートル級高峰14座の登頂に成功した登山家オム・ホンギルは、現役を引退した後、何度も共に登頂した後輩ムテクが悪天候のため下山中に遭難死したことを知る。そこはエベレストの地上 8,750 メートルの地で、人間が存在できない“デスゾーン”と呼ばれる場所だった。誰もが遺体回収をあきらめる中、ホンギルはかつての仲間を集め“ヒューマン遠征隊”を結成。山岳史上最も危険で困難な遠征に挑む…。

エベレストで遭難死した後輩の遺体を回収するため、命懸けの登山に挑んだ登山家オム・ホンギルの実話を映画化した「ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆」。私は、登山家オム・ホンギルという伝説的な登山家の存在も、彼が記録に残らない困難な登頂に挑んだ事実も、この映画を見るまでまったく知らなかった。さらに、あれほど流行に敏感な韓国映画界が、映画界に昔から存在する山岳映画というジャンルを、今まで一度も作っていなかったことも。

近年、ハリウッドや日本でもエベレストを題材にした力作が作られているが、韓国初の本格山岳映画である本作は、いかにも韓国映画らしく、前半は少しコミカルな人情劇として、後半は、遺体回収という困難な遠征に挑む迫力の山岳映画として描いている。映画を貫くのは、山を愛するものたちの絆だ。世界最高峰のエベレストには、登頂成功の輝かしい記録と共に、そこで命を落とした数限りない登山家の遺体と無念の思いが多く残されている悲しい記憶がある。

いざとなったら誰かを見捨ててでも救える命を救うのが山の暗黙のルール。それでもムテクの亡骸をそのままにしてはおけない!との思いから、限界に挑んだホンギルらヒューマン遠征隊たちの思いはどこまでも熱い。だからこそ彼らの最後の決断には、自然への畏怖と敬意が感じられるのである。「国際市場で逢いましょう」などの演技派ファン・ジョンミンら、出演者たちの熱演が光っていた。
【70点】
(原題「Himalaya」)
(韓国/イ・ソクフン監督/ファン・ジョンミン、チョンウ、チョ・ソンハ、他)
(友情度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。