(自民党の最重要キーマン、二階幹事長の誕生)
自公日VS野党共闘で政局は「55年体制」に逆戻りへ
2009年の民主党による国政選挙を通じた政権交代の幻想から目が覚めない政治関係者は、いまだに与野党という枠で政局を語る癖が抜けていません。しかし、野党共闘によって野党第一党の民進党が著しい「左傾化」を歩む中、日本の政治は「55年体制」に近いものに先祖返りしたと感じています。
55年体制とは1955年に成立した自民党・社会党の2つの万年与党・万年野党の間で行われてきた八百長のような政治体制であり、同体制下にあって日本の政権交代は「自民党内の派閥による疑似的な政権交代」によって行われてきました。
現在、野党共闘によって完全に時代遅れの左翼臭を漂わせる野党側が政権を取り戻す可能性が皆無となったことで、中選挙区と小選挙区比例代表制という選挙制度の違いはあるものの、部分的に派閥闘争による政治力学が復活したと看做すことができると思われます。
政局上の野党の存在感が希薄化した参議院議員選挙、総裁派閥である清和会による東京都・金城湯池支配の終わり、非主流派の台頭を印象付ける内閣改造・党人事など、安倍政権の屋台骨である自民党内の不安定化要因は非常に大きなものになりつつあります。
非主流派・二階幹事長の誕生、 細田総務会長就任に見るパワーバランスの変化
最も注目すべき政局上の変化は、二階幹事長の誕生、です。安倍政権と距離が必ずしも近くない二階氏が幹事長という要職、つまり自民党の公認権の差配や政党助成金などの分配を決定できる立場についた意味は極めて重いものです。また、選挙対策委員長に首相に近い古屋圭司氏を置いたものの、古屋氏の所属派閥が二階派である点も注目に値します。
つまり、自民党議員の死活的な利益である「選挙」に関する部分は全て非主流派である二階派がおさえる形となっています。これは自民党内において清和会の影響力が徐々に低下していくことを意味しており、小泉政権から続く自民党・清和会一強時代の終わりにつながる一手となった可能性があります。
消費税増税見送りも含めて、首相官邸と財務省と近しい関係にある谷垣・麻生らの宏池会系派閥との間に隙間風が吹いており、小泉政権以来大枠として継続してきた清和会+宏池会の一部による連合の枠組みが崩れ始めています。
清和会の派閥の領袖である細田氏を総務会長に充てる必要があるほどに同派の人材が不足しつつある中、選挙対策委員長の経験を積んだ茂木政調会長(平成研)、古屋・現選挙対策委員長は自民党の将来的な中核を担う人材になるものと推測されます。
自民党内の勢力構造の変化が大阪・東京に影響を与える可能性も
また、野党側に対するインパクトとしても二階幹事長の人事は非常に大きな意味を持っています。首相官邸が大阪維新と極めて近い関係を維持していることは周知の事実ですが、維新と二階氏が犬猿の仲であることから官邸と自民党の間に維新に対する方針の違いが目立つようになる可能性があります。
一方、東京都においてはオリンピック利権を巡って、清和会の事実上のドンである森元首相に反旗を翻した小池新都知事が誕生しました。それに伴って清和会やそれに近いポジションを維持してきた都連5役が職を辞する事態となっています。
そのため、大阪とは事情が異なり、東京側では非主流派の旗が立つ可能性が出てきています。二階幹事長は政党遍歴の過程で政治行動をともにしてきた小池氏に対して党との関係修復に前向きな姿勢を取り続けています。また、安倍首相に対する総裁選の対抗馬として名前が取り沙汰された野田聖子氏が小池氏に都知事選の早い段階でエールを送っていたことは印象的な出来事でした。
大阪・東京の両地域で地域政党の誕生が現実化するかどうかは予断を許さないものの、自民党という軸で見た場合、大阪・東京の政局上の利害は必ずしも一致しておらず、中長期的には全国的な基盤形成に失敗した大阪維新は衰退し、東京・小池勢力にとっては勢力拡大に向けてやや有利な風が吹いているものと思われます。
安倍政権が小池氏以来の女性大臣である稲田氏を防衛相に持ってきたことは、清和会の次期総理候補の育成プランの一環であるとともに、必ずしも安倍政権と近い関係とは言えない小池氏に対する当てこすりの面もあるのではないかと推察されます。いずれにせよ、自民党内での勢力バランスの変化は大阪・東京という二大都市における政局構造の変化に強い影響を与えていくことになるでしょう。
安倍首相の地位は安泰か?、衆議院解散のタイミングで新たな政局の展開へ
野党は「アベ政治を終わらせる」という意味不明なスローガンを掲げ続けてきましたが、仮にアベ政治なるものが安倍政権を意味するのであれば、アベ政治は野党の掛け声ではなく自民党内の政変で倒れる可能性が出てきました。
与党で衆参両院の3分の2の議席を確保したことは、結果として安倍政権の安定性を揺るがすほどに議席を取りすぎてしまったと言えるのかもしれません。野党の存在が無意味化・陳腐化する中で、自民党内での権力闘争が再び活気を取り戻してきた状況となっています。
安倍首相にとっては伝家の宝刀である衆議院解散のみが政権維持のための切り札として残っている状況です。同政権の宿願である憲法改正発議または北方領土返還交渉いずれかを成就するために、安倍政権が残された政治資源をどのように使っていくのか興味深い展開となっています。
永田町知謀戦 二階俊博と田中角栄 [単行本(ソフトカバー)]
大下 英治
さくら舎
2016-07-06
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