独のテロとサウジ・コネクション

ドイツで先月起きた2件のテロ事件を思い出してほしい。

①ドイツ南部バイエルン州のビュルツブルクで18日午後9時ごろ、アフガニスタン出身の17歳の難民申請者の少年(Riaz Khan Ahmadzai)が乗っていた電車の中で乗客に斧とナイフで襲い掛かり、5人に重軽傷を負わせるという事件が起きた。犯行後、電車から降りて逃げるところを駆け付けた特殊部隊員に射殺された。目撃者によると、少年は犯行時に「神は偉大なり」(アラー・アクバル)と叫んでいたという。
バイエルン州のヨハヒム・ヘルマン内相が19日明らかにしたところによると、少年の部屋から手書きのイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の旗が見つかったという。少年は1年前に難民としてドイツに来た。保護者はいなかった。ISはその直後、少年の犯行を称賛している。

②ドイツ南部バイエルン州のアンスバッハで24日午後10時10分ごろ、シリア難民の男(Mohammad Daleel)が現地で開催されていた野外音楽祭の会場入り口で持参した爆弾を爆発させた。地元警察当局によると、男は死亡、少なくとも12人が負傷し、そのうち3人は重傷。
男は野外音楽祭に入って自爆する計画だったが、チケットを持っていなかったため入場できず、会場前で爆発した。音楽祭には約2000人が集まっていた。男の自爆がイスラム過激派の自爆テロだったのか、自殺目的の爆発だっかは不明。バイエルン州のヨハヒム・ヘルマン内相は、「イスラム過激派の自爆テロの可能性が考えられる」と述べた。

2件のテロ事件は捜査が進むにつれて全容が明らかになってきた。アフガン出身の17歳の少年と27歳のシリアの男性はいずれも犯行前にサウジアラビアのISの関係者と電話やチャットで交流し、指示を受けていたことが明らかになった。すなわち、2人のテロリストはサウジ・コネクションを有していたのだ。

独週刊誌シュピーゲル電子版5日付によると、17歳の少年は犯行前、チャットし、IS関係者は少年に、「車に乗って群衆に向かってぶつかれば多くの人を殺せる」と助言。それに対し、少年は、「自分は車の免許を持っていない」と述べ、「列車の乗って乗客を殺す」と提案したという。一方、27歳のシリアの男は野外音楽祭の会場で自爆する予定だったが、爆弾が間違って早く爆発してしまったという。犯行前、サウジのIS関係者は彼に爆発状況をビデオに撮ってISに送るように要請している。彼の部屋には爆弾製造に関する本や材料があったという。

ドイツの2件のテロ事件の犯人はサウジに潜伏するIS関係者の指示を受けいたことが明らかになったわけだ。それが事実とすれば、深刻な問題が浮かび上がってくる。サウジがISの背後でテロを支援している、という疑いが出てくるのだ。

サウジはイスラム教スンニ派でも厳格な教えを説くワッハーブ派だ。国内には10%以上のシーア派もいる。サウジは公式にはISのテロを批判してきたが、その裏でISのテロを容認し、財政支援をしている、という情報がこれまで何度も流れている。ドイツの2件のテロ事件の犯人がサウジのIS関係者とコンタクトがあったという事実はそれを裏付けている。

国際テロ組織「アルカイダ」の指導者だったウサーマ・ビン=ラーディンはサウジの富豪出身者だった。旧ユーゴスラビア紛争後、バルカンで新しいイスラム寺院が次々と建立されているが、その建設費は主にサウジから出ている。欧州への入口バルカンで今日、イスラム過激派が暗躍してきたことはコラム欄でも紹介済みだ。

サウジはISに対して明確な距離を置くべきだ。さもなければ、サウジは国際的な非難を受け、一層孤立化の道を行くことになる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。