【新行政経営論(第1回)】行政経営モデルの「再チャレンジ」

西村 健

行政経営モデル

東京都知事選挙の公約には、
「子どもの貧困をなくし、生活困窮者に寄り添う「地域共生社会」の実現」
「東京を世界有数の観光都市化」「国の成長戦略と連携して東京都のGDPを大幅アップ」
「東京を世界の環境先進都市に発展」「だれもが先進医療を受けられる東京を目指します。」
といった文言が並ぶ。

どのように実行するのでしょうか?
行政と民間・住民の役割は明確であるのでしょうか?
「先進」の定義は何でしょうか?
ジレンマや問題解決のためのシナリオはどういったものでしょうか?
実行するための予算はどう見積もっているの?財源は足りますか?
既存の計画との関連は整合性がとれていますか?
目指す先のレベル感は具体的にしていただけませんか?
といった疑問を感じてしまった。

公約で問われるのは「実行したか」ではない、「実行してどうなったか」である。それが問われない現状に少し専門家として悲しくなった。
その意味で「行政経営」が叫ばれた10年後の今になっても、上山信一慶大教授の提起した「行政経営の時代」はまだ道半ばである。

しかし、多くの地方自治体職員が行政改革に取り組み、頑張ってきたことも確かだ。ここ10数年で、行政評価の導入、総合計画における数値目標による進行管理、施策別枠配分予選編成制度、指定管理者制度、PFI、様々な民間委託、公共施設の見直し・統廃合など、「無駄な」事業の見直し、予算の「無駄」の削減など一定の成果を得てきた。それは大変評価できる。

しかし、ここ数年、行政改革は行き詰まりを見せている。「行政改革プラン」「行財政改革計画」の策定において、行革担当の職員は頭を悩ませている。財政担当の職員は予算編成の難しさに苦労する(特に合併自治体)。

・制度は導入したが、運用・進行管理がうまくいかない
・指標で数字を議論しているが、そもそもその指標・KPIが適切ではない(外部要因に左右されるなど)のにもかかわらず「数字」が一人歩きする
・建前での議論に終始し、本当の問題の議論を避けたり、先送りにする
・住民に我慢してもらう事業の見直しが進まない
といった現実がそこには存在する。

こうした中、多くの自治体の行政経営改革に関わってきた私(三重県の行政改革を主導した株式会社日本能率協会コンサルティングに所属していた)が感じるのは、「行政経営モデル」の重要性である。

佐野市役所、南アルプス市役所、焼津市役所などの自治体では
・総合計画
・施策と事務事業
・予算編成
を連動させる取り組みが進んでいる。

予算と計画、評価が連動しているということはどういうことか。

まず、まちづくりの方針があり、それをもとに、予算の枠が全体方針の優先順位によって施策ごとに決められ、計画で定められた目標達成のため資源をどう配分するか施策内で事務事業の優先順位が設定され、評価結果に基づいて見直しが図られ、全体として目標達成が図られるということである。これが「行政経営モデル」である(西村が作成した図を参考に)。端的に言ってしまえば3つのシステムによって自治体が「経営」されていくということだ。運営ではない、経営だ。
こうした自治体では、仕組み・制度をいかにして地道な運用するのか、どのようにして職員の動き方を変えていくのかを考え抜いている。

ただし、このモデルを回すことの大変さは自治体職員なら想像がつくだろう。自分のやりたい事業を推進するトップ、問題意識のない幹部、組織の論理による反発、新しい取り組みへの心理的抵抗、横槍を入れる議員、「成果」という言葉に戸惑う職員・・・・・などなど。そもそも導入が難しいものだ。
その壁を乗り越えた結果、最近は「行政経営」という考え方に理解を示す人も増えた。
しかし、行施経営が実践できているか、となると話は別である。

最近、「結局、この行政経営のモデルを回すしかないのだろう」との意見を多くの自治体の職員や議員・関係者から聞く。当たり前のことを当たり前に地道に進めていくしか、解はないということだろう。

ただし、この行政経営のモデルには3つの課題がある。

(1)優先順位設定が難しい
優先順位の設定は難しい。30の施策があったとしても、1位〜30位まで順位づけした途端に、議会からの多くの批判を浴びるだろう。なので、大雑把な形でしか設定できない。納得をしてもらうような議論の場があったとしても、皆がその優先順位については利害を主張し、確定するのは難しい。

(2)事業の見直しは段階的に進めざるを得ない
事務事業の見直し・廃止は、既得権益を侵害する。そこには必ず反発を引き起こす。自分が愛用していた体育館が突然使えなくなったら、住民は不満を示すし、議員にお願いする。一般住民は、自分だけが利益を手厚く受益していて、住民の一部が広く浅く負担していたとしても、そんなことに気づきもしない。知っていても、知らないフリをするだけだ。
なので、習志野市の公共施設管理計画の策定のように、念入りに丁寧に住民とコミュニケーションをして、一歩一歩進めていく必要がある。
行政改革を成功させために、様々な取り組みをする改革派市長がいるが、その手法が現状の問題解決に適切でなかったり、手法が強引だったり、進め方・スケジュール感が早急過ぎると、一定層の不満によって市長が選挙で負けてしまうということもある。

(3)役割議論がなかなか進まない
総合計画には、行政の役割、団体の役割、市民の役割が明記されている。廃棄物施策で言えば、「(市民は)分別する」「リサイクルをする」などである。こうした行政や団体、住民の役割・責任などについては自治基本条例で明記されているが、その文言がどれだけ機能しているかを確証できる術を我々話は持っていない。

こうした課題を意識しっつ、いかにして行政経営を進め、住民の幸福度、住民としての「誇り」の向上、経済的自立などまちづくりの目標を達成するのか。一朝一夕には進まないことを自覚して地道に取り組むほかはない。行政経営には、多くの共通理解と実践の積み重ねが必要になってくる。

【追伸】
今後、働き方改革(残業削減)、目標管理、地方創生の改善などの地方自治体に話題になっているテーマへの分析・提言、関係者・自治体の取材なども進めていく予定です。ご期待ください。

*本記事の内容は所属団体とは関係なく西村個人の見識に基づくものです。感想・意見・反論、取材依頼などは[email protected]までお願いします。