天皇陛下が8日、生前退位について、ご自身のお考えをビデオメッセージで明らかにされると聞いたので、日本時間午後3時(ウィーン時間同日午前8時)、インターネットを通じて拝聴させて頂いた。閣下のお声が82歳で2度の大手術を体験されたとは思えないほど、とても明瞭で聞きやすいことに驚きを感じたが、「象徴天皇」としての公務が体力の限界もあって願い通り行うことができなくなることに対する天皇陛下の苦悩が伝わってきた。
▲天皇陛下の生前退位について報じるオーストリア代表紙「プレッセ」2016年8月9日付
天皇陛下の生前退位に対しては、このコラム欄で「終身制の功罪について」(2016年7月17日参考)で所見を述べたので、今回は天皇陛下の生前退位についてのオーストリア代表紙「プレッセ」の報道内容を読者に伝えたい。
中欧を久しく掌握していたハプスブルク王朝時代を持つオーストリアでは王室、皇室について元来強い関心がある。天皇陛下が生前退位の意向があるという第1報が流れた時からオーストリア通信(APA)や同国メディアは報じていた。そして8日の天皇陛下のビデオメッセージについて、プレッセ紙のアンゲラ・ケーラー東京特派員が国際面にほぼ一面を使って詳細に報じていた。
長い駐在体験のあるケーラー特派員は、「82歳の天皇は国家象徴の公務を成就する体力に欠けている。ただし、生前退位は皇室典範には何も明記されていない。同時に、後継者問題も明らかではない」と指摘し、天皇陛下の生前退位は容易な問題ではないと伝えている。
記者は後継者問題に言及し、「伝統的には皇太子殿下が継承する。皇太子は既に天皇陛下の公務を代理で行ってきたが、父親の天皇陛下との関係はよくない。その背景には、外交官出身の妃、雅子妃殿下が皇室の世界に順応できなく、後継者となるべき男子を出産できなかったことなどがある」と紹介。皇太子とは好対照に、世襲順位で第2の秋篠宮様には男子の子供もあって、「天皇の男子世襲制という観点から判断すれば、皇太子ご家庭より適している」と報じている。
第2次世界大戦の終戦後、天皇は象徴天皇となり、政治には全く関与しない立場となり、日本国民の統合のシンボルとなった経過を説明し、「現天皇陛下は国民の人気は高い」と指摘。生前退位問題では、「世論調査によると、国民の85%は天皇の生前退位を支持しているが、天皇が変われば元号が変わる。日本の社会全般が大きな変化を余儀なくされる。そのため、安倍現政府は天皇陛下の生前退位の願いを迅速には成就しないかもしれない」と予想している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。