どうも新田です。小説よりも奇なる人生の場面に何度か出会ったこともありますが、さすがにこのニュースは想像を絶しておりました。小池都知事がこの度、2人の特別秘書を採用したのですが、1人目は側近でブレーンである元都議の野田数氏というのは想定内。しかし、日を置いて名前が上がった2人目は、もう何年も会ってないけど身近な人で、ここ数年来経験しなかった笑撃&サプライズでした。
小池百合子都知事 特別秘書に元読売新聞の女性記者(8月9日・産経ニュース)
某所から「元読売記者が採用されたらしいけど、ご存知ですか?」と尋ねられて記事を見たら、わ、わ、わぁ〜、み、み、宮地さんじゃないですか。読売新聞2000年入社の我が同期です。さっそく、心当たりがありそうな連中に片っ端から連絡を取ってみると、一報が出た直後は、私から聞いて初めて知ったという感じでみんな絶句。特に同期連中は何が起きたのか分からず、もう大混乱でした(苦笑)。
私も、読売社内のみなさんも驚いていたのは、あまりに唐突すぎる展開だったから。
というのも、彼女と小池さんに接点があるなんて聞いたことなかったし、甲府支局から本社勤務になって10年、政治部勤務の経験がないどころか、現場取材をする部署にいなかったはずで、ますます謎だらけ。早稲田在学中に柔道部員だったことから「ボディガード採用じゃないか」なんて冗談をいう人から、「これはナベツネ主筆が、小池さんの動向を探らせるため、自民党サイドの意向を汲んで潜入させたからではないか」的な説まで飛び出しました(笑)
まあ、複数の関係先から仕入れた情報を分析してみると、そんな大それた話ではなさそうです。私はお会いしたことないのですが、彼女のご主人が他紙の政治部在籍経験のある記者さんとのことで、そのルートからのオファーだったのではないかと見られております。まあ真相はわかりませんが。このあたりは、きょう午後に小池さんの2回目の定例会見がありますので、興味のある記者さんは知事に直接お尋ねになってみたらいいんじゃないでしょうか(※下段に追記あり)。
リスクのある記者の異業種転職チャレンジ
で、ここからが本題。
個人的には、元同期として宮地さんの新天地でのご活躍を陰ながらお祈りしておりますが、リスクは決して小さくない転職のように思います。以下は、客観的な視点でいくつか申し上げますが、記者から特別秘書に採用というのは、最近だと猪瀬さんの当選直後に産経新聞の記者を登用した先例がございます。ただ、猪瀬さんが1年しか持たずに辞めてしまったため、当然のことながら心中する形になりました。
小池女史の政治資金を巡っては、選挙戦中から週刊誌、夕刊紙で取りざたされておりまして、今後また文春砲にぶちかまかされる案件が出てくるような事態が万一あれば、先例踏襲の恐れもあり得ます。
さらには小池女史本人ではなくとも、特別職は「公人」ですので、厳しいチェックの目にさらされます。マスコミはもちろんですが、怖い怖い都議会の野党会派、たとえば共産党なんかは和泉都議に、舛添さんの特別秘書がちゃんと給料に見合った仕事を「都政のため」にしているのか議会で追及させていました。当然、新知事に対しても精査されるはず。
《和泉氏の指摘は特別秘書の扱いにも及んでいた。特別秘書の横田賢一氏には都の局長級の給与が支払われながら、庁内で見かけないとして、勤務形態について細かく質問していた》(産経ニュース6月7日)
もちろん、政治家の秘書になるという時点で、大手新聞社の安定した地位を捨て、もろもろの試練に立ち向かう覚悟はできているでしょう。しかし、もっとベーシックなキャリアリスク、新聞記者が異業種に転職する際に付いて回るリスク(秘書に限らず)は、どうしても付きまといます。
ここからは宮地さんに限らず、一般論になるのですが、新聞記者は型通りの文章を書くことはプロではあるけれども、会社や業界の外に一歩出ると、それまでの職業的スキルをほとんど生かすことができません。いわゆる「ポータブルスキル」が非常に少ない職業の異業種転職は、これからが大変です。
“ヤメ記者”の場合、ビジネスパーソンたるものが誰でもやっていること、見積書・請求書・納品書を作るとか、複数の業者に相見積もりを取って一社を選定し発注かけるとか、営業をかけるとか、エクセルやパワーポイントで資料を作成し、場合によっては自らプレゼンテーションするとか、会議を運営するとか、契約書を作成し弁護士と協議してリーガルチェックをするとか、普通の会社で働く人が20代で基礎を仕込まれるもろもろの経験をまったくせずに年を重ねてしまいます。
役所の中の仕事なので、ノルマに追い回されることはないでしょうが、普通の社会人がこなすような通常業務を事故なく回せるかもポイントです。
まあ、今回の登用に際しては、記者経験をある程度、生かせるポジションが用意されてるのでしょう。ただ、広報的な立ち回りを期待されるとなると、元ニュースキャスターであり、雇い主である小池女史の方が圧倒的にメディアへの見せ方はよく分かってます。助言を求められた時に水準を満たせるのかどうか。そこまでは行かなくても、記者会見の運営、発表の仕方、キャッチコピー作りなどのコンテンツづくりをどう差配するとか、記者と広報は近いようでスキルギャップはあります。同じ野球場にいても投手と打者くらい違います。
さらには、デジタル対応。SNSの効果的な使い方とか、ネット発信についても業務対応するとなれば、紙媒体一筋のヤメ記者には新たなスキルアップも必要になります。
かくいう私も、新聞業界の将来を過度に悲観して社外に飛び出してみたら、人生棒に振りかけたわけですが、宮地さんは私よりも器用だし、内向的な私と違ってコミュニケーション能力が高い。最初の段階でどこまで柔軟に対応できるかもポイントになりそうです。
一方で、意外に知られてないことですが、新聞記者も40代になると、アスリートと同じく、プレイヤーとして一線から離脱し始める年頃です。デスクとして後輩記者を指揮したり、専門記者として我が道を極めたり出来る人は幸せなほうで、編集以外の仕事に不本意ながら配置転換させられ、強制的に「引退」させられる人もおります。
その意味では、40代を前に、会社組織の都合で自分の方向性を決められるのではなく、自分でリスクを取ってチャレンジする生き方を決められる。それも他業界にも持ち込めるポータブルスキルが少ない中で、可能性が拓けたことに、読売以外の新聞社でも、心のそこで羨む中年記者さんは、少なくないのではないでしょうか。
ちなみに、本件のニュースをFacebookでシェアしたら、読売の某本社社長も歴任した大物OBが、「優秀そうだ。新しいことにどんどんチャレンジしたらいい」と激励されておりました。新聞業界の衰退で先行きに不安を覚える若い記者もいる中で、「ヤメ記者」の華麗なる転身例として、ご成功を陰ながらお祈りしております。ではでは。
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<追記23:00>
小池さんの2回目の定例会見があり、週刊文春の記者から宮地さんを登用した経緯を聞かれておりました。知事就任直後から記者会見の一言一句書き起こしが鬼のようなスピードで東京都サイト「知事の部屋」にアップされており(政府より早い)、こんなやり取りがございました(太字は筆者注)。
【記者】分かりました。あと、宮地さん、特別秘書になられた。ちょっと突然降って湧いたような印象があるのですけど、もう少し経緯を詳しくいただければと思うのです。
【知事】かねてより存じ上げていたということが1点と、それから、メディアでのご経験、お父様もメディア関係者でいらっしゃいます。そういったことから、様々な接点があり、そしてまた、その真摯な取組をこれからも期待をするということで、彼女に声をかけさせていただきました。
【記者】家族ぐるみの付き合いだと聞いているのですが。
【知事】はい、そのようなことで結構でございます。
文春も大いに興味をもっているようですね。本丸はミステリアスな経歴という噂がある水田秘書のようですが、やはりターゲットにされているようです(ここでも文春かよ…苦笑)宮地さんのご尊父がメディア関係者てことは存じませんでしたが、文春記者が言う「家族ぐるみ」とは某紙政治部記者のご主人のことを指すのか、はたまたご尊父からのお付き合いを言うのか、週刊誌記者さんたちの興味を誘いそうです。あ〜、「公人」になると面倒ですね。。。