写真は取材に協力いただいた松本奈緒美。
「必要は発明の母」という諺がある。必要に迫られると、あれこれ工夫がなされ発明を生むから、必要は発明にとって母親のようなものだという意味として利用される。主婦発明家の松本奈緒美(以下、松本)は、家事が便利になるグッズを発明し、数多く商品化している。
●アーティスト志望から発明家に転身
松本は日本大学芸術学部卒業である。2001年から05年まで工学院大学専門学校の非常勤講師をつとめている。当時はアートの世界にいたため、発明の世界に足を踏み入れるなど夢想だにしていなかったそうだ。
松本は、高校まで少女漫画家を目指していた。大学は「アーティストになりたい」と日本大学芸術学部に進む。卒業後は建築事務所に勤めながらアーティストとしての活動を継続する。その後、個展や企画展を開くまでになったが、作品を見に来るのは美術関係者ばかりだったことに疑問を抱くようになった。何のために作品を発表しているのか見えなくなっていたのである。
そして、あるコンペの最終審査で2位になった時に、審査員から掛けられた言葉が、松本の人生を変えることになる。「ドイツで同じような作品を見たことがある」と。「作品は、私でなくても思いつくものだった。それが今までずっと心が苦しかった理由なのだ」と、松本はアーティストとしての活動を休止する。
転機は2007年にやってきた。特許庁・関東経済企画庁が主催する、パテントソリューションフェアのパネリストに選出されたことだった。その後は、「お金をかけずに発明する」をモットーに数々の発明品を生み出すようになる。
●アイデアはクローズドに機会を狙う
アイデアがカタチになり実際の商品として発売されると、売上の一部がロイヤリティとなり収入を得ることが可能になる。
しかし、安定した収入を得るには幾つかのノウハウがあるそうだ。松本の代表的なヒット作『ペン先すーぴぃ』を商品化にこぎ着けるまでに5年を費やしている。『ペン先すーぴぃ』は掃除機の連結パイプにつけるだけで、拭き掃除も出来てしまう便利なノズル型の商品である。当時のことを次のように述べている。
「当時は、未来が見えにくいので息苦しさを感じていました。お金もない、充足感もない、と焦るばかりでした。主人には『私だって忙しいんだから、家事くらい手伝ってよ』と。その時に、やりたくない家事を誰かに押し付けるのではなく、自分が家事をやりたくなるような商品を作ってみよう。」(松本)
「掃除機がけの後に、水拭きをしますが、私は、ホコリを吸引しながら拭き掃除ができたら便利ではないかと思い、ボール紙で試作品をつくりはじめました。そして、2005年に『ペン先すーぴぃ』が店頭に並ぶようになります。10万個以上を売り上げ、ヒット商品となりました。」(同)
その後も、同様の視点で自分自身が苦手とすることからアイデアを生み出してカタチにしてきた。2010年には発明ラボックスを設立し代表に就任する。ロイヤリティを得るためのノウハウを伝授する情報発信もはじめた。
しかし発明ビジネスには留意すべきこともある。実は、発明やアイデアに関するサイトは数多く存在する。事前に、アイデアを公開してしまうと、のちのち特許が取れなくなるリスクがある。そのため、登録者以外の人は見ることができないクローズドな会員システムを構築した。このことによって、商品化に関するアドバイスなどがし易くなった。
●夏休みの宿題に発明はいかが
松本によれば、お金・技術がなくても、手近にある材料と図工・家庭科並みの技術力で十分発明はできるそうだ。つまり「子供」でもできるということである。
「毎年開催されている、『全国ジュニア発明展』で審査員を務めていますが子供の視点は興味深いです。『おばあちゃんが玄関で靴を履くときに困っていたから、このような杖を作った』というようによく観察されています。」(松本)
お子さん、お孫さんのために、夏休みの自由研究で工作をしてみては如何だろうか。意外にも発明家としての素養が垣間見れるかも知れない。
尾藤克之
コラムニスト
PS
7月26日開催の「第2回著者発掘セミナー」は好評のうちに終了しました。多数のご参加有難うございました。なお、次回以降の関連セミナーは8月末頃に公開する予定です。