英国は6月、国民投票を通じて欧州連合(EU)からの離脱を決定した。EU本部のブリュッセルとの離脱交渉は来年初めにもスタートする予定だが、離脱によるさまざまな影響が既にみられるという。経済活動の拠点を英国から他のEU諸国に移転を考える国際会社だけではない。ドイツに居住する英国人がドイツ国籍を取得する件数がここにきて急増しているというのだ。独週刊誌シュピーゲル電子版が12日、報じている。

同誌はドイツ人の男性と結婚した英国女性の例を挙げている。49歳の英国女性は27年間、ドイツに住んでいるが、国籍は英国人だ。しかし、これまで問題はなかった。英国がEU加盟国だからだ。ところが、母国がEU離脱を決定したことでさまざまな障害も出てくる。主人と子供はEU市民だが、自分は非EU市民だ。そこでEU市民として留まるためにドイツ国籍を取得することを決定したというのだ。

具体的に、どれだけの英国人がドイツ国籍を申請したかはまだ正式な統計が出ていないが、今年6月23日以降、その数は顕著に増加しているという。

例えば シュトゥットガルト市では今年に入り29人の英国人が国籍申請している。その件数は昨年1年間のほぼ10倍に当たる。それも23件のうち21件は6月23日以降だ。ハンブルク市では8月現在、158人の英国人が申請済みで、そのうち120人はこれまた6月23日以降だ。ちなみに、同市の国籍申請数は昨年1年間で52件に過ぎなかった。すなわち、ハンブルク市では昨年比で3倍以上の英国人がドイツ国籍を既に申請しているということになる。ケルン市でも3倍以上の増加を記録している。昨年一年間で10件だったが、同市では現在34件であり、離脱決定前17件、離脱決定後17件という。

国籍問題で市の相談所を訪れる件数も増えているという。例えば、バイエルン州のミュンヘン市では離脱決定後、86件の相談件数があった。ハノーバー市は133件だ。相談内容は、離脱後の滞在問題や雇用問題が多いという。

ドイツに住む英国人の国籍取得を簡易化すべきだという声がベルリンの政界から聞こえるという。例えば、6年間より短くドイツで居住していた英国人のドイツ国籍の取得を許可すべきだという考えだ。一般的にはドイツで8年間の居住実績があれば国籍を申請できる。ただし、ドイツ語ができるなど社会統合が良好の場合、8年ではなく6年に短縮できるといった提案だ。ただし、メルケル政権は英国人を特別待遇する考えはないという。以上、シュピーゲルの記事を紹介した。

いずれにしても、海外に住む英国人にとっては、EU離脱を決めた6月23日は苦い思いの日として記憶されるだろう。同時に、EUの価値を再認識する日となるかもしれない。人は失って初めてその真価に目覚めることが多いものだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。