日本が変わった日

岡本 裕明

長い日本の歴史の中で世の中が大きく変わったことは何回あったでしょうか?日本が明白に統一されて以降では徳川政権発足の時、開国の時、江戸幕府が終焉し明治時代になった時、そして終戦の時ではないかと思います。我々が経験している時代の中ではバブル崩壊の1990年が極めつけだったと思います。

それらの時とは地殻変動のような大きな外的変化により国民が持ち続けていた常識観を崩壊させるということでしょうか?徳川政権の時は「これで戦国時代が終わった」という安堵感があったでしょうか?開国は島国ニッポンが目覚めたとき、明治はまさに近代国家の走りでちょんまげも侍姿もなくなり、洋服を着る時代が始まります。これもある意味、前向きの刺激だったと思います。つまり、ここまでは日本はプラス作用の地殻変動だったとも言えます。

が、終戦は明らかに違います。日清戦争、日露戦争と勝ち進み、開国して50年程度の日本は世界の中でとんでもない国という評価を受けます。そして国際連盟において日本は常任理事国として世界の一流国であるという自意識を持ち始めます。一方、国内では軍の存在感が飛躍的に増大します。その陸軍では226事件を通じて皇道派と統制派の亀裂が明白となります。内閣はそれまでの政党政治が軍による支配となり、明らかな軍国主義と化していきます。そして勝てると信じていた戦争は大本営が退路を自ら絶つことで聖戦としたものの8月15日の玉音押送でその精神的支えは崩壊しました。

日本が走った明治から昭和の時代は専門家の意見も表現も百出だと思いますが、個人的にはこのように考えています。

日本が勘違いをしてしまったきっかけと思えるのは日露戦争の賠償交渉だったと思います。それこそ想定外の善戦で日本はあのロシアを打ち負かします。(日本は想定外になったことがもう一度あります。それはモンゴル帝国が攻めてきた元寇⦅文永の役、弘安の役⦆で、正にカミカゼ日本でした)しかし、ポーツマス賠償交渉では全権、小村寿太郎の判断を国民が良しとしませんでした。これが国家を挙げての盛り上がりの契機となったと考えています。

マスコミがこれに加担したこともあります。思想を支配する動きも出てきましたし、政府による言論統制もありました。国民は嘘か本当かわからない情報をうのみにさせられ、国民意識の高揚化が図られます。国際連盟で脱退宣言した松岡洋右への国民的喝采、短命政権が続く中で真打登場となった近衛文麿首相に日本は狂喜乱舞し、近衛コールは尋常ではない国家の盛り上がりを見せたのであります。

8月15日、日本は覚醒します。政府や軍、大本営をその戦争責任とする見方もありますが、日本全体がそのようなムードの中にあったことも否定できないでしょう。もちろん、事実を知らされていなかったという一種のマインドコントロールがその背景でありますが。

こう考えると戦後の日本の新たなる繁栄とは民主化とともにまともな情報が行きわたることで国民一人一人の意識が変わったことがあります。元来、生真面目で努力家の性格である日本人は銃を捨て汗をかくようになりました。これがバブルまでの日本を作り上げた原動力であります。どれだけ汗をかくか、これが会社などの組織の中で新たなる共同体意識を作り上げていきます。が、ここでまた、同じような間違いを起こしてしまいます。それは日本は世界の中で経済的に最も優れた国である、という勘違いであります。世界の不動産を買い漁り、株価は永遠に上がると信じてしまいます。

こう見ると8月15日は悲惨な日であると共に明日へ繋がる未来が残されていたとも言えます。だからこそ早い復興だったのではないでしょうか?確かに朝鮮戦争特需などもありましたがそれがなくても日本は確実に高度成長を遂げたと思います。

では1990年のバルブ崩壊後、なぜ、日本は変化できないのでしょうか?日本の長い歴史の中で日本が激変する事実が生じてからこんなに長く不振に陥ることはありませんでした。いやいや、もしかしたら私たちは間違っているかもしれません。経済成長が正で経済不振は許されないというのが回答ではなく、「真の豊かさ」を日本は求めているのかもしれません。

80年代まではコンプライアンスなどありません。あらゆるハラスメントが存在しました。暴力団が闊歩し、大手企業との癒着もあり反社会的勢力が世の中の一部に歴然と存在していました。株主総会を仕切る輩もいました。が、その殲滅は進みました。業界にはびこった談合は厳しく処罰され、組合が経営を牛耳った国鉄、日産、日本航空は解体的出直しとなりました。

ディスクロージャーの時代はあらゆるものを「見える化」しました。子供が学校でどういう教育を受けているのか、会社の中であってはならないことが起きていないか監視する体制も進みました。もちろん、IT化や監視カメラが増えたこともあります。しかし、それ以上に国民が知る権利を持ち、高い関心で物事に意見をするようになりました。

日本が変わる度に我々は一歩ずつ階段を上り、意識は変化しました。豊かな日本を演じた日本はまだまだその心の豊かさは十分ではありません。今、物欲から意識欲への変化の過渡期にあるとみています。この質の向上は日本独特の進化を遂げていると思っています。それゆえにノーベル賞も増え、世界最高水準のスポーツ選手も数多く輩出しています。

我々は恵まれた時代にいます。が、子供たち、孫たちのライフをもっと進化させるための努力は惜しんではならないと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、みられる日本人 8月15日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。