新卒採用見直しよりも多様性のあるキャリアを示すべき

松本 孝行

世耕経済産業大臣が言及したことにより、またまた新卒採用が熱い注目を浴びています。今までも新卒採用は批判の対象になってきたのですが、昔と今とではだいぶ意味合いも変わってきています。

私も当初、城繁幸さんが「なぜ若者は3年で辞めるのか」を出版された時に新卒採用を激しく批判していました。あの頃、大学卒業後に既卒になってしまうと本当に就職先に困ったからです。私自身、ハローワークも行ったし公務員試験も受けたし中途採用のサイトや人材紹介業者なども使いました。ですが、ことごとく既卒は不利な扱いを受けたのを覚えています。

今は当時とはだいぶ状況もかわり、3年以内であれば既卒でも応募OKの企業も増え、リクナビ・マイナビも既卒でありながら使うことができるようになりました。加えて有効求人倍率も上がり、人手不足の状況になったために求職者側が有利に動けるようになっています。私が既卒だった時代よりもだいぶマシになっているようで、新卒一括採用の弊害というのは少なくなりつつあります。

日本と海外の新卒採用に関する最大の違いは?

そもそも世界では新卒採用というのがないのか?というと、そんなことはありません。アメリカでもイギリスでも、大学から企業に就職するというコースは存在します。大学でMBAをとってすぐにコンサルタントになる、というような例はアメリカでは多いようです。新卒採用自体は世界でも行われていることであり、日本が変わっているわけではありません。

では日本と世界では何が違うのでしょうか。大きく違う点としては「正社員という既得権益」です。正社員を本流とすると、パート・アルバイトは傍流です。忘憂であるパート・アルバイトから本流である正社員になり、そこから出世して行くという道が閉ざされているという点は特徴的ではないでしょうか。有名大企業は特に顕著で、新卒一括採用では大きな門も中途採用の本流への門は開いていないことも多いでしょう。

私も商社子会社の社員だった時に経験をしました。子会社から本社の社員になることは出来ません。本社から出向していた人も数人いましたが、同じ仕事をしながらも採用ルートが違いますから、給与形態や待遇が違っていました。もちろん本社から出向している人は我々よりも高い給与・待遇で働いていたのです。これは今でもあるでしょうから、新卒一括採用の弊害と言えるでしょう。

こういった傍流から本流へ行けないという点を踏まえて、新卒一括採用を見直すと世耕大臣がおっしゃったのかはわかりません。ですがこのような状況を改善するために、国ができることは少ないかと思います

新卒一括採用見直しよりも大事なこと

個人的に大企業と中小企業、そして個人事業と3つを経験してきて私は「新卒一括採用見直しよりも大事なことはあるな」と感じているのが現実です。それは多様性のあるキャリアを示すことです。

私が大学時代はちょうどITブームで藤田さん・堀江さん等、様々なIT企業経営者が脚光を浴びていました。この時、大企業ではなくベンチャー企業に就職するという、大企業に就職する以外の道を知ることができ、未来の選択肢が広がったと感じています。

もう一つが様々な経営者に出会ったことです。特に自己破産・倒産・夜逃げをした経営者など、失敗を経験している経営者に会ったのは大きな収穫でした。今現在、目指すべき経営者の方は私にはいないのですが、失敗した経営者の方々から「失敗しても人生終わりじゃなく、それなりに楽しく生きられる」ということを知ったのは大きかったと思います。

「良い大学を出て良い企業に入る」それは確かに一つのキャリアであることは間違いありません。ですが、キャリアというのは人それぞれ多様性のあるものです。であれば、多くの多様性のあるキャリアを若い人、学生、子供に見せられるようにすることが国のやるべきことではないでしょうか。

そういう意味では虚構新聞の父の日参観なんて、いいんじゃないかなぁと思っています。自分のお父さん、友達のお父さん、いろんな働く大人を見ることは画一的な考え方を打破し、多様性をもたらすのではないでしょうか。そのためにも今働いている我々が、子どもや若い人から憧れられるような働き方をしないといけないのですけどね(笑)