量子物理学者と「神」の存在について

長谷川 良

量子テレポーテーションの実現で世界的に著名なウィーン大学の量子物理学教授、アントン・ツァイリンガー氏(Anton Zeilinger)は、「量子物理学が神と直面する時点に到着することはあり得ない。神は実証するという意味で自然科学的に発見されることはない。もし自然科学的な方法で神が発見されたとすれば、宗教と信仰の終わりを意味する」という。同教授がウィーンの教会新聞日曜日版とのインタビューの中で答えたもので、バチカン放送独語電子版が18日報じた。

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▲世界的な量子物理学者ツァイリンガー教授(オーストリア週刊誌「プロフィール」でのインタビューから)

人々は分からないことにぶつかればその説明を求める。人々は余りにも多く神について語り、その定義を提示してきた。神は全知であり、全能だ、といった具合にだ。ツァイリンガー氏は、「自分は神秘主義者かもしれない。人は神を感じることができるが、神について多くのことを語ることはできない」という。

「神」とはいかなる存在か、宇宙の森羅万象を創造した神は存在するのか、等々、昔から人間は考えてきた。新約聖書の「ヨハネの黙示録」1章には神自身が答えている。「私はアルパであり、オメガだ」という。アルパは最初であるから、宇宙の創造者を意味し、オメガは終わりを意味するから、その完成者という意味かもしれない。同時に、「黙示録」の別の個所には「私は初めであり、終わりである」という表現もある。それ以上、何の説明もないのだ。

人間が時間や空間の概念から神に問いかけたとしても所詮無理があるのだろう。量子情報のパイオニアのツァイリンガー教授は、「量子物理学がさらに発展したとしても神に遭遇することはない」と断言し、神について「多くを語ること」に警告を発している。神は人間の言語体系と認識メカニズムでは掌握できないというわけだ。

少し古いが、オーストリアの週刊誌「プロフィール」(2012年8月9日号)は神について、教授に聞いている。同誌の会見記事の見出しは「愛する神をわれわれは発見できない」だった。
プロフィル誌記者はツァイリンガー教授に、「神は自然科学的に理解できないのか」と聞くと、教授は、「神は証明できない。説明できないものは多く存在する。例えば、自然法則だ。重力はなぜ存在するのか。誰も知らない。存在するだけだ」と説明。そして無神論者については、「無神論者は神はいないと主張するが、実証できないでいる」と述べている。

それでは、宇宙すべては偶然に誕生したものだろうか。ツァイリンガー教授は、「偶然でこのような宇宙が生まれるだろうかと問わざるを得ない。物理定数のプランク定数(Planck Constant)がより小さかったり、より大きかったならば、原子は存在しない。その結果、人間も存在しないことになる」と指摘している。宇宙全てが精密なバランスの上で存在しているというわけだ。

profil: Das konnte doch genauso gut Zufall sein.
Zeilinger: Aber da frage ich: Warum ist die Welt so, dass der Zufall so etwas produzieren kann. Wenn etwa das Plancksche Wirkungsquantum viel kleiner oder groser ware, dann gabe es nicht annahernd die Moglichkeit, dass es Atome gibt. Und damit uns.


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。