企業の成長を支えるのは人間の創意工夫である。創意工夫は、与えられた仕事を与えられた通りにやっている限りは、生まれ得ないわけで、与えられた仕事以上の付加価値の創出を目指す志向性を必要とする。
さて、この創意工夫を軸に報酬の体系を考えたとき、そこには、四つの要素を認め得るはずだ。第一に、与えられた仕事の対価、第二に、創意工夫への期待の対価、第三に、創意工夫によって生まれた付加価値の分配、第四に、次元の違う創意工夫が創出した企業価値の分配、この四つである。
いうまでもなく、四つの要素のうち、企業にとって戦略的に重要なのは、人材による創意工夫の結果だから、処遇制度においては、付加価値の分配と企業価値の分配こそが鍵になるのである。
ところで、露骨にいえば、企業の勝手な論理としては、戦力となる人材の候補を引き付け、戦力と化した人材を引き留め、残念ながら戦力外となった人材を引き離す、このような人材の流れができるのが望ましいわけである。
自明のことながら、付加価値の分配と企業価値の分配を受け得る人材とは、重要な戦力となる人材であり、企業にとって、辞められたら困るものであり、なんとしても、引き留めるべきものである。しかるに、そうした人材は、自立した人材だから、辞めやすいし、辞めても職に困らないし、他社からの引き抜きにもあいやすい。
そこで、処遇方法として、人材の引き留めの工夫が必要となる。理屈上、それは、長く勤めるほうが有利という仕組みになる。故に、後払いの制度となる。そのとき、その後払いの一部は、必ず、退職時まで繰り越されるであろう。つまり、年金退職金となるであろう。
従って、原理的に、年金退職金は、企業にとって、戦略的に重要なのである。ただし、それが重要である意味からして、企業戦略上の年金退職金は、伝統的な年金退職金とは全く異なる理念の上に設計されなくてはならない。
それは、いうまでもなく、付加価値の分配と企業価値の分配としての年金退職金であり、付加価値を創造し、企業価値を高めることで、貢献のあった人材に、貢献に応じて処遇するための年金退職金である。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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