ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)は、9月の開幕を前に野球でいうオープン戦にあたるプレシーズンを迎えています。
そこで、事件は起こりました。
8月26日、グリーンベイ・パッカーズVSサンフランシスコ・49ersとの試合でクオーターバックのコリン・キャパニック選手が国歌斉唱で起立しなかったのです。度重なる白人警官による武器を所持していない黒人青年の殺害など、未だに残る人種差別への抗議の印だったといいます。
全米ではスパイク・リー監督などセレブリティのほか、”黒人の命も大切(Black Lives Matter)”を始めとする人権擁護団体が賛辞を送ったものです。一方で、保守派勢力の間では大ブーイングが巻き起こりました。保守系のニュースサイトは「資産推定額1億ドルなのに、”Black Lives Matter”はおろか人権団体に寄付した形跡ゼロ」、「”Black Lives Matter”関係者のイスラム系ガールフレンドが今回の黒幕」など、言いたい放題です。
キャパニック選手のジャージは、燃やされる始末。
(出所:Conservative Daily Posts)
それどころかネットでは彼を揶揄する画像がソーシャルネットワークを席巻し、フェイスブッックでは専用のページまで出来上がりました。
ウサイン・ボルト選手が米国の国家斉唱に敬意を表し、インタビューを中断した場面を持ち出しています。
(出所:Colin Kaepernick and BLM Memes)
あの人も、もちろん反応しています。共和党の米大統領候補に指名された不動産王のドナルド・トランプ氏は、キャパニック選手に対し「何とも無様だ。キャパニック選手は、違う国に住んだ方がいいんじゃないか」と批判していました。
NYに住んでいた当時、アメリカ人の間で自国大好きな愛国者が多いことに驚かされたものです。独立記念日など星条旗が玄関口ではためき、サンクスギビングデーには必ず七面鳥を食べ、スポーツ観戦では必ず起立して国歌を斉唱する。筆者の友人なんて、民主党並びに共和党の大統領候補をめぐる選択肢に絶望しつつ「アメリカ以外、住む場所なんて考えられない」と首を振ってましたっけ。まあ、大統領や首相の影響で住む国を変える人などそんなにいらっしゃらないでしょうが。
スポーツ選手による政治的な抗議と言えば、1968年のメキシコ五輪で200m走で世界記録で金メダルに輝いたトミー・スミス選手と同じく銅メダルを獲得したジョン・カーロス選手の”ブラック・パワー・サリュート”が余りにも有名ですね。2人は五輪から追放されメディアに攻撃され家族まで非難に晒されるなどの不遇の時を過ごし、NFL選手を経て陸上コーチに就任したといいます。2人が通ったカリフォルニア州立大学には、称賛の証として2人の銅像が建てられました。
この2人には当時、サポーターがいたんです。銀メダルを得て表彰台に上がった、オーストラリアのピーター・ノーマン選手も同調し協力していました。黒い手袋を忘れたカーロス選手に、スミス選手の分を右と左で分けて着用すれば良いとのアイデアも与えたんです。その上、2人と共に「人権を求めるオリンピック・プロジェクト」のバッジをつけていたとは知りませんでした。
(カバー写真:Gabriel Saldana/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年8月30日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。