安倍首相とプーチン大統領

岡本 裕明

安倍首相とプーチン大統領はある意味、世界の首脳会談の中でも注目に値する二人であります。それは二人とも当面辞めないだろうということ、国内からそれなりの支持基盤があるということ、安倍首相は対立する欧米とロシアの間に立てる唯一の主要国首脳である点でしょうか?

ロシアと喧嘩を始めたのはもうすぐいなくなるオバマ大統領であります。ドイツのメルケル首相は経済的結びつきやロシアからのガスの供給もあり、そこまで本気で喧嘩を売りたいとは思っていませんでした。トルコのエルドアン大統領は例のロシア機誤爆事件から時間も経ち、ロシアとの関係改善に努めます。オバマ大統領のいくつかある不評な政策の中で外交、特にロシアとの関係は感情が先立ち、最後まで冷静な判断が出来なかったということになりそうです。

そのオバマ大統領の時代がいよいよ終わりそうなここにきてプーチン大統領と安倍首相は今年、少なくとも2度会い、興味深い会談が期待されます。一度目の会談は9月2日、ウラジオストックで主に経済関係の具体的協力内容を確認するものと思われます。よって、日本が気にするであろう平和条約締結への道筋、ひいては北方領土問題解決の糸口は主に12月の二度目の会談で展開されるような気がいたします。

安倍首相の外交スタイルはギブアンドテイク型でいわゆるごり押しではありません。ある意味、スマートなビジネスディールとも言えますが、一部の方々には弱腰のようにも見えるでしょうし、不満が炸裂する場合もあります。その典型が韓国とのディールで慰安婦問題や通貨スワップ復活はなぜ、という日本人のコメントが多く寄せられると思いますが、首相は北朝鮮対策に見せかけた中国対策を行うための戦略を進めたと思われます。

では、今回のロシアとのディールを考えてみましょう。平和条約、ひいては北方領土問題については日本側の4島返還主張は日本側の強い主張であるものの、ロシアとの本件の交渉は悪化の一途を辿っています。

もともと北方領土問題は吉田元首相のメモに4島は無理といった内容が記されていた経緯もあり国民側の意図と政府の認識に温度に差があったように思えます。更に政治的に返還のプロパガンダが押し込まれてきたことも事実でしょう。驚くべきことはロシア側が本件の交渉テーブルに何度も着き、数々の交渉が行われてきたことであります。外務省はさまざまなオファーを投げかけます。二島先行返還案が出た際には弱腰とバッシングされ、また、外務省アメリカスクールあたりから「アメリカはそんな交渉は許さない」ぐらい脅されてきたはずです。

今回、二度目の会談が12月に決まったというのは実に見事なタイミングであります。それはアメリカ大統領の空白時期である点であります。つまり対米外交を考えた場合、キーパーソンが変わるところにあるため、うるさい外野が少ない状態でロシアとの交渉に臨めるというわけです。

ある意味、このようなタイミングはもうそうそうないかもしれません。よって、9月2日のウラジオストック会談で平和条約締結や北方領土問題の解決を前提にした経済協力関係の確認を行い、12月会談にどのようにつなげられるかがキーではないかとみています。

ところで日経の読者向けアンケートで北方領土返還について4島返還すべしとする比率が下がり妥協案の支持が一番になっていました。時代と共に変わってきたそれは本質論から実質論になってきているのかもしれません。安倍首相は本件に関して全く新しい切り口でアプローチすると発言されていました。さて、どういう展開になるのか、まずは今週の会談に注目でしょうか。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月1日付より