米航空宇宙局(NASA)は2日、探査機ジュノー(Juno)が撮影した木星(Jupiter)の南・北極の写真を発表した。NASAによれば、ジュノーは2018年まで木星の周囲を回りながら、その大気や内部構造などを調査するという。
このニュースを読んで直ぐに考えたことは、2011年8月に打ち上げられた探査機ジュノーが約5年後、木星に接近して写真を撮影する前、「木星は何をしていたか?」ということだ。ジュノーが接近して、撮影する前から、木星は存在し、太陽系で第5惑星であったはずだ。そしてジュノーが木星に到着し、その周囲を撮影することで、木星という惑星と人類は繋がってくる。観測や測量結果からではなく、人間が作った探査機ジュノーが接近することで、木星は受肉化し、その存在は一層、生き生きとしてきた。
当方には、「人間が木星の存在に気がつく前、木星は何をしていたか」という思いが湧いてくる。木星は惑星の中でも古くから観測され、神話や信仰の対象となってきた。木星は存在したが、誰も知らなかった。まさに観客のない博物館だった。宇宙の中でポツンと存在していた。われわれが知らない木星の前歴史があったのかもしれないが、木星は何も語らない。
それでは人間が観測した直後、木星は存在を始めたのだろうか。人間が観測しない限り、木星が存在しているとか、存在していないといった類の質問は出てこない。木星の創生と人間の「木星は存在していた」との間には多分、時間的には大きなずれがあるだろう。
21世紀の宇宙物理学者たちは、宇宙がビックバン後、急膨張し、今も拡大し続けているというインフレーション理論を提唱している。宇宙誕生当時に放出されたさまざまなマイクロ波が現在、地球に届いているかもしれないという。宇宙の拡大に伴い、木星が人間の視野に入ってきたといえるかもしれない。
ところで、クリストファー・コロンブスが1492年、米大陸を発見する前、米大陸は存在しなかったのだろうか。答えは明らかに「No」だ。コロンブスが米大陸を発見する前には先住民族(インディアンら)が住んで居た。すなわち、コロンブスが米大陸を発見する前にも米大陸は存在していた。ただ、コロンブスが“西欧人”として初めて米大陸を発見しただけだ。その結果、西欧人の地図は飛躍的に拡大したといわれている。地球レベルのインフレーション理論ともいえるだろう。
この論理でいけば、木星は人間が観測や測量でその存在を確認する前にも、そしてジュノーが写真を撮影して地球に送信する前から、存在し続けていたことになる。ひょっとしたら、木星には人間とは違うが、生命体が存在し、今なお存在しているかもしれない。
当方は宇宙の暗闇の中で存在していた木星を頭の中で描く。その時間は永遠だったろうが、瞬間でもあったかもしれない。そしてひょんなことに、何かが近づいてきた。探査機ジュノーだ。NASAが送ってきた探査機だ。木星と探査機の出会いはどうだったろうか。NASAの写真では分からないが、木星は初めて新鮮な好奇心を感じたのではないか。
考えてみても欲しい。長い長い時間、存在していたが、その存在を誰にも理解してもらえなかった。その木星が近づくジュノーを見つけた時、その感動はいかばかりだったろうか。
ちなみに、木星のジュピターは故ローマ神話の「神」の名であり、探査機ジュノーはその妻の名だ。木星とジュノーの出会いは夫婦の出会いを意味している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。