男性保育士を主人公に描かれた小説「戦うハニー」の著者・新野剛志先生と保育園を運営するNPO法人フローレンスの代表・駒崎弘樹、「おうち保育園しののめ」で園長を務める現役保育士の岩崎将吾の男性3人が「保育×男性」について対談した今回。(前編:男性保育士は絶対必要!その理由とは?~男3人、真剣に保育を語る~)圧倒的マイノリティである男性保育士は、保育の中で実際にどのように立ちまわっているのでしょうか…。そして気になるお給料の実態は…?
―保育の仕事はチーム戦
駒崎:男性が職場にいることは、本来の多様性においてもいいことです。男性の発想・男性的なものの考えでより多角的な視点を得ることができるから、それは保育の質にとっても子どもの成長にもいいことです。「戦うハニー」の中でも園長がいいキャラクターでうまく保護者との関係を築いていますね。
新野先生:そうですね。やっぱり保育士同士の関係性も大事でしょう?
岩崎:はい。保育はチームワークが一番大切で、保育力=チームワークと言ってもいいと思います。チームワークというと、ぱっと運動会などの行事が浮かぶと思いますけど、それは普段から意識して行動しているから行事がうまくいく。毎日きちんとコミュニケーションをとっていることが第一歩ですよね。
駒崎:岩崎君はいまキャリアアップして園長を任されているけれど、チームワークを意識するのはどんなとき?
岩崎:園長になった最初のころは、業務を抱えすぎて仕事が回らなくなったんですよ。それで今はどんどん周りに任せるようになりました。シフトの調整も任せたら、その人の方が断然うまくて。今は「誰に任せようかな」と任せるのが楽しみになりましたね。保育士といっても、それぞれに得意分野や役割があります。私の場合はもっぱら叱り役。同じ園の中には優しい声掛けが得意な人、教えるのが得意な人…いろいろといます。
―男性保育士は寿退社する
駒崎:本当は男性保育士が社会と同じように50%ぐらいいるのが理想ですよね。そもそも、男性が少なかった理由はやっぱり給与です。保育士って待遇が低いのでやむなく「男性の寿退社」が言われるような職場。その裏には、(男は家族を養うために転職をせざるをえないが)女の仕事であれば食えなくてもいいだろうというのが透けて見えます。でも、保育士はきちんとした専門職だし、セーフティーネットの役割を担っている。男性保育士の問題は保育士をめぐる構造的な問題に直結しています。
新野先生:駒崎さんは保育士の給与アップについては、いろいろと発言されていますよね。
駒崎:はい、もう長いことやっておりまして。認可保育園を経営してわかったのが、保育園の収入は子ども一人当たりいくらで決まっていて、その中でやらなくてはいけない。「英語を教えてプラス5万円もらいます」という仕組みにもできないし、セーフティーネットという役割がある中で誰かを優遇する仕組みにするべきではないとも思います。当然必要な運営費もある。だとすると、処遇を上げる方法は難しくて、補助金を上げてくださいと言うしかない。それでも、政治的な優先順位が上がってこないのは、「女性が多い職場なんだから旦那さんに食べさせてもらえばいいじゃん」ということなんですね。
新野先生:岩崎さんは実際のところ待遇についてどうですか?駒崎さんの前では言いづらいと思いますけど…(笑)。
駒崎:いいよ、思っていることを教えてよ。
岩崎:うわ、言いにくいな…(笑)。私はフローレンスに2011年に入社したんですけど、入社後から比べればこれでもだいぶ楽になってきました。それは園長になったこともありますけど、基本給も上がってきています。ただ結婚して、子どもを育てていると、まだまだしんどいですね。入社時からの上がり方を考えたらガクンと下がることはないと思うし、これからに期待しています。
駒崎:俺も独身時代から保育の世界にいて、わかっていたつもりだけれど、親になると保育園のありがたみが骨身に染みるよね…。
岩崎:そうですね。保育士としては父親になったことで保護者の気持ちが痛いほどわかってむしろやりにくくなりました。というのも、子どもがいないときは「保育士としての言い分」を真っ向からぶつけられたんです。でも今は「保育士としてこれはハッキリいいたい、けどお母さんやお父さんの気持ちもよく分かる…」と悩むことが増えました。まあ、保育士としては成長したと思います。やっぱり寿退社するのは保育士のキャリアとしてももったいないです。
保育士の「子どもが好き」だけで成り立っている
駒崎:フローレンスでは園運営を効率化して、その費用はすべて処遇改善に使ってきました。小規模保育所が2015年に子ども子育て新制度による認可保育園になったことも大きくて、少しずつ給与を上げています。比較的都内でも水準はいい方ですけど、全産業平均で見ればまだまだ低いので、世の中並みにはしたいですね。せめて公務員として同じ仕事をしている公立保育園の保育士との格差は変えたいです。「戦うハニー」の主人公も公立保育園の保育士を目指していますもんね。
新野先生:そうですね。僕も「戦うハニー」を書いたことで、保育士寄りの考えにすごくなりました。取材をしていく中で今、この職業は保育士さんたちの「子どもが好き」とか「やりがい」に寄りかかっていてそれだけで成り立っている状態なんだと実感しました。待機児童問題がたとえ解決されたとしても、保育士の待遇は上げなければならないし。まったく傍からなにもできないけれど、どうにかしたいという気持ちです。
駒崎:いやいや、こういう作品が色んな人に読まれて、最後のセーフティーネットに保育園がなっていることを知ってもらって、保育園の役割を色んな人に知ってもらうことが大事です。ぜひドラマ化してもらって、処遇改善の機運が高まったり、保育士を目指す男性が増えてくれることを願います!
岩崎:そうですね。少しでも保育に興味を持ったなら、ぜひ飛び込んで欲しいですね。保育の世界は現場がすべて。「戦うハニー」の主人公のように毎日、子どもたちや保護者対応に揉まれて成長できます。保育士は毎年、子どもたちの成長を見届けることができるし、また新しい子どもたちに出会うことができるので、一般企業にはないやりがいがありますよ。
(完)
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編集部より:この記事は認定NPO法人フローレンス運営のオウンドメディア「スゴいい保育」より、2016年9月2日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「スゴいい保育」をご覧ください。