9月14日の日経新聞の一面トップ(ちなみに13版)に「マイナス金利 深掘り軸に」という記事が掲載された。この記事によると「国債買入では長短の金利差を広げるように促すことを検討する」ともある。
そもそものリフレ政策の導入となった2013年4月の量的・質的緩和政策そのものに対して私自身、懸念を示していたことで、べき論から言えばいろいろと 指摘したいところではある。いずれにしてもその懸念は的中し、日銀はある意味、追い込まれた格好となった。その状況をどのような手段で打破するのかが、今 回の総括的な検証の目的となっていたと推測される。しかし、日銀にとって新たな緩和手段を見いだすだけでなく、それとともにもうひとつ解決すべき大きな課 題があったと思われる。
今年1月の金融政策決定会合では、年初からの世界的なリスク回避による動きに対するものとして、日銀はそれまで総裁自ら否定していたマイナス金利政策の 導入を決定した。マイナス金利政策は総裁が追加緩和手段を執行部に検討するよう指示した結果出てきたものであった。企画を中心とした執行部は金融機関にな るべく収益悪化を招かぬよう3段階の「階層構造」を採用した。ところがこの日銀のマイナス金利政策の導入により、日銀が予想をもしなかった事態が発生し た。
2月9日に10年国債の利回りがマイナスとなり、それ以降、プラス金利が付いている超長期債の利回りも異常に押しつぶされる格好となったのである。日銀 はこれをマイナス金利政策の効果としていたが、足元金利だけでなく金利全体がこのように異様に押しつぶされる事態に対し金融界からは批判の声が出ていた。
その批判的な声を決定づけたのが、4月に三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長の発言であった。銀行にとってマイナス金利政策は「短期的効 果は明らかにネガティブだ」と述べていた。さらに三菱東京UFJ銀行は、国債市場特別参加者の資格を国に返上したが、これも日銀のマイナス金利を含めた国 債政策による影響との見方もできた。
日銀は銀行の銀行であるとともに、その金融政策は金融市場を通じて行われるものであり、つまり金融機関を通じて政策は行われることになる。その金融機関 との関係が悪化する事態は避けなければならない。黒田総裁は「マイナス金利は金融機関の収益に悪影響与えていない」という主張をしていたが、この発言はむ しろ金融機関との関係を悪化させたのではなかろうか。
日銀、この場合はその原因のマイナス金利政策を講じた企画を中心とした執行部としては、総括的な検証で行うべきことは追加緩和余地を探ることとともに、この金融界からの批判を緩和させて金融機関との関係改善を図ることであったのではないと推測される。
足元金利のマイナス部分を深掘りさせても長短金利の利ざやを拡げれば、金融機関にとっては収益拡大が見込める。生保や年金などにとって超長期債の利回り 上昇は運用利回りの向上となるため、歓迎されよう。さらにマイナス金利で落ち込んでしまった国債の流動性の回復も望める。
このあたりを意識して21日に公表される日銀の総括的な検証では「国債買入では長短の金利差を広げるように促すことを検討する」可能性があるのではないかと予想されるのである。かなり無理矢理な理由付けとなるが、イールドカーブがスティープ化すれば人々のインフレ予想が引き上げられたという見方とするこ ともできる。
ただし、マイナス金利の深掘りそのものは銀行などの収益悪化を招く可能性がある。これに対してはマクロ加算分を増やすなり、階層を増やすとか、銀行に とってのセーフティーネットを増やして極力悪影響が出ないよう工夫してくるのではと予想される。今度のマイナス金利の深掘りがあるとして、それは当然なが ら国債のイールドカーブのフラット化は目的とはならない。前回のマイナス金利政策とは意味合いも異なり、実より名を取る政策になるのではないかと予想され る。
今回は批判の多かったサプライズも避けるとみられるため、櫻井審議委員のインタビューや黒田総裁、中曽副総裁の講演などを通じて総括のヒントを示唆していた。その結論としては、善し悪しはさておき、イールドカーブのスティープ化であろうと予想せざるを得なかった。
ただし、注意すべきは日銀は長期金利はコントロールできないということが前提にあることである。市場はオーバーシュートすることもあり、カーブも操作できるとの思い込みは新たなリスクを招く懸念があることも注意しなければならない。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年9月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。