ドゥテルテ氏が日本の首相だったら

井本 省吾

私は麻薬犯罪容疑者を2ヶ月間で1000人以上殺害してしまうドゥテルテ・フィリピン大統領の超法規的政治に恐怖心を覚える反面、フィリピン社会安定のために強引な手法を厭わない姿勢にうらやましさを覚える。

彼が日本の首相だったら、もっと国益を増進する政策を考えるのではないか。ふと、そう考えたくなる。

日本は中国や韓国、そして米国の思惑を気にしすぎてビクビクし、「国家」として縮こまっているからだ。まさに外務省の好きな言葉「ハンディキャップ国家」(国家として世界にカネは出すが、軍事貢献はしない国家)そのまま、である。

その外交政策は屈辱的で、国家としての誇りを感じさせない。外国人も国内での活動は自由勝手で、外国のスパイ行為を許している。このままで日本社会の安全と国益は大丈夫なのかと思うほどに。例えば、西村幸祐氏は北朝鮮の核・ミサイル開発が進む背景に、日本の構造汚染があると喝破する。

朝鮮学校への補助金拠出が巡り巡って北朝鮮が核・ミサイル開発に役立っている。パチンコなどの資金が北朝鮮に渡っていることは久しい以前からのこと。それだけではない。

核・ミサイルの技術開発にどれだけ在日が関与しているか? 京大や立命館の教官にウヨウヨいるはずだ。そして日本以上に韓国が工作され、シナが隠された援助を行う

日本のメディアも、日本が構造的に北の資金源になっている問題を追及しない。「日本にスパイ防止法ができなければ、永遠に日本の国民、富、資産、知的財産が収奪され続けるだろう」と指摘する西村氏は、先日亡くなった自民党の政治家、加藤紘一氏について、次の事実を紹介している。

官房長官時代に北朝鮮にコメ支援を行った時には、北朝鮮労働党統一戦線工作部の工作員、吉田猛が加藤氏のスタッフになっていた。こんなことは氷山の一角で報道されない。日本の政界、メディアの中枢に巣喰うスパイの自由になる。普通の国なら加藤紘一氏にもスパイ容疑の嫌疑がかかるだろう

ドゥテルテ氏なら、加藤氏を容赦しなかったろう。

だが、北朝鮮の船舶は中東で船名、国籍を変えながら取引をしているが、その国旗は日本の港で偽装されている。「北朝鮮はシリアとの関係を深め、核開発だけなくサリンなど有毒ガス兵器の開発に関与している。(それに伴って)実戦経験を積む北朝鮮軍は明らかに日本の脅威となる。日本の官憲、情報機関は何をしているのか?」と西村氏は憤る。

スパイ防止法だけではない。北朝鮮、中国が軍事力を高める中で、日本の軍事予算の拡大は急務であり、日本も核持込みを早急に進める必要がある。

世界的には、それが常識なのに、日本は周回遅れの非常識な平和ボケの中に沈潜し、軍事予算を大きく拡大する政治的状況にはない。今日、代表選が開かれる民進党などは典型的で、およそ中国や北朝鮮との軍事的な緊張は選挙の話題にもならない。

こうした雰囲気の中で、安倍政権も軍事力の拡大を明白に打ち出しにくいことは理解できる。ドゥテルテ大統領は民主主義も未成熟な中小国のフィリピンだから大胆な行動がとれる。民主国家の経済成熟大国である日本でできることはかぎられている、という言い訳も聞こえてくる。

ドゥテルテ大統領のような行動をとったら、かつて対中外交など米国からの相対的独立政策をとった田中角栄首相がロッキード裁判で米国から排除されたように、政治的生命を奪われる危険もある。

だが、民主主義大国の米国ははるかに日本よりも強い外交路線を打ち出しているし、英仏独など欧州の主要先進民主大国でも日本よりは国際社会で存在感を示している。

憲法9条のある「世界の非常識大国」である日本との違いがそこにある。アメリカの外交に真正面から反発するドゥテルテ大統領にも政治外交の世界から抹殺される危険がつねにある。だが、ドゥテルテ氏なら、時代のうねりをにらみながら、それを回避する権謀術数も併せ持っているのではないか、という期待もある。

日本も同じではないか。考えて見れば、トランプ大統領候補が内向き志向で、「日本は自分のことは自分で守れ」と言っている今は、アメリカからの日本が相対的な独立を進めるチャンスなのである。

国会議員の3分の2以上の賛成が得られる見通しとなった今、憲法9条の改正も可能という機会に恵まれている。やるか、やらないか。ドウテルテ大統領ほどでなくとも、一歩踏み出す意識があれば、事態は大きく変わる。

いたずらに近隣諸国やアメリカと事を構える必要はないが、英霊を慰霊する靖国参拝など、外交の干渉を受けるべきではないのに、安倍首相も稲田防衛大臣も参拝できない。その呪縛から逃れる努力をすべきときである。

安倍首相にそう望みたい。