原油減産合意がもたらす影響

岡本 裕明

9月25日付の私のブログでこんなことを書いています。「いつかは上がるといいながらなかなか上向かない原油価格。今週にOPEC,イラン、ロシアが非公式会議で減産を再び探るようで現在、下地ならしの会議が進んでいるようですが、下馬評ではあまり期待は持てないそうです。案外、期待していない会議でびっくりするよう合意がなされたりするものなのです…」と記したのは別に何か裏情報を持っていたわけではありません。

実際のところ、ロシアは合意できないだろうと会議に参戦しなかったようで内部の人間すら期待感ゼロだった今回の暫定合意は何だったのでしょうか?

私が注目していたのは下地作りの調整がイランとサウジの間で進んでいたことが逆に本気度を感じさせたという点でしょうか?今までのOPEC会議はイランの出方が最大の注目でしたが石油の輸出解禁からイランの増産ペースが軌道に乗るまで時間がかかっていました。その間、イランは聞く耳を持つ状況になかったのですが、今回、下地作りのテーブルに乗ったのはいつまでもわがままがいえないという先読みもあったのだろうと思います。

サウジも台所が非常に苦しい中、31歳のサルマン副皇太子の采配にも注目でした。かつての石油の実権者で20年も在任したヌアイミ石油相からサルマン副皇太子ダイレクトの指令が伝わりやすいファリハ氏に代えたところがその伏線であります。

サルマン副皇太子はサウジの長い先行きを考える中で、脱石油社会の到来を見越し、各種投資に打って出ています。しかしながら、それらが開花するのには時間がかかるため、現状の石油依存の国家体質において目先、何が何でも状況を改善させる必要性を背景に感じ取れます。また、アラムコの上場準備もあり、その価格形成をなるべく高めたい野望も当然あったはずです。

今回の暫定減産合意は11月30日のOPEC総会時に正式決定されるとみています。減産幅はわずかですが、産油国が無尽蔵な産油競争に陥っていたことに歯止めがかかったことは大きなトレンド変化とも言えます。原油価格はニューヨーク市場で5%程度上昇して47ドル台となりましたが、今後、じわっと上昇が続き、当初見込んでいた年末50ドルから60ドルのラインに再挑戦になろうかと思います。

さて、原油価格が多少なりとも上向くことでそれなりの影響が出てくるでしょう。例えば、アメリカでは自動車販売は燃費の悪いライトトラックから乗用車などへのシフトが起きるかもしれません。読み切れないのはアメリカのシェールオイルがどのぐらい回復するかですが、個人的には金融機関がすぐさま、融資の姿勢を転じることはないとみていますのでシェール復活には原油がある程度高値安定するまでは再ブームは期待できないと思います。

日本などでは一部関連製品の値上がりはありうるかもしれませんが、5-60ドルの水準であれば物価への影響は軽微だろうと思います。むしろ、物価マインド的にプラスに転じますので経済全体にはよいシャワーとなるのではないでしょうか?

長期的に見れば脱石油社会は時代の趨勢ですのでジワリと石油依存度は下がってくるとみています。また、天然ガスが安値で放置されているので代替資源としての活用が進めば資源依存の地図は変わってくると思います。特に安倍首相がプーチン大統領と進めている日ロ間の経済関係の合意についてはサハリンの石油、ガスの日本への供給が主テーマであろうと推測しています。パイプラインを含めた供給体制の合意の可能性もあり、日本にとって資源のオプションが増え、価格交渉力が増してくることもあるでしょう。

一方、石油価格の上昇は中国の資源へののどの渇きを促進してしまうかもしれません。最大の懸念は南シナ海への進出意欲でしょう。過度の資源価格へのスペキュレーション(投機)は政治問題、外交問題への発展につながり、東アジアの不安定化をもたらす要素にもつながります。

中東の石油減産合意はリンクする世界故に「風が吹けば桶屋が儲かる」的な展開を見せるものです。すべてを予想することは難しく、想定外の事態も起こりうることは頭の片隅に置いていた方がよさそうです。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月29日付より