【映画評】高慢と偏見とゾンビ

18世紀末のイギリスで、謎のウイルスが蔓延し、感染したものたちはゾンビとなって人々を襲っていた。片田舎に住むベネット家の5人姉妹は、得意のカンフーでゾンビと闘う日々を送っている。ある日、ベネット家の隣に資産家のビングリーと、彼の親友で大富豪のゾンビハンター、ダーシーがやってくる。娘たちを何とかお金持ちと結婚させようと必死な母親と姉妹たちは狂喜乱舞するが、次女エリザベスだけは、ダーシーの高慢な態度とあまりに冷酷にゾンビを始末する様子に嫌悪感を抱く。一方ダーシーは、エリザベスに好意を持つが、身分の違いを超えられずにいた。やがてゾンビとの全面戦争がはじまり、二人は共闘することになるが…。

英国文学の古典「高慢と偏見」をゾンビがはびこる終末世界に置き換えた異色作「高慢と偏見とゾンビ」。ジェイン・オースティンの最高傑作「高慢と偏見」では、ロングドレスの優雅な世界で、中流階級の女性たちの制約だらけの生き方とその中で生まれる恋を描いているが、それをゾンビ・ホラーと組み合わせてしまうとは、なんともスゴい荒業である。資料によると、既存の作品を混ぜ合わせて別の作品を作ることを音楽用語でマッシュアップと呼ぶらしい。本作でミックスされたのは、コスチュームものとゾンビもの。この組み合わせが、意外にもイケるのだ。

優雅なドレスの下のガーターベルトに短剣を忍ばせ、サーベル片手にカンフーで戦う美人姉妹たちの雄姿には、思わず見惚れてしまうほど。このバトル・アクションは、女性にとってあまりにも窮屈な時代に生きるヒロインが鬱憤をはらすかのようである。実際、ダーシーとエリザベスは、互いに恋心を抱きながらも、素直になれず、誤解やすれ違いが加わって、結果、大乱闘になだれ込むのだが、そこには、資産家と結婚するしか生きる道がなかった当時の女性たちの苦悩が凝縮されているだけに、ゾンビとの死闘よりも切実さが漂っていた。

ゾンビ映画は、コメディーやラブロマンスなど、多くのジャンルで威力を発揮するが、本作もまた、アイデア一発の企画勝ちながら、文学系ゾンビ映画として、予想外に楽しめる。ゾンビと組み合わせて面白そうな古典文学は他にどんなものがあるかしら? 「戦争と平和とゾンビ」。「老人と海とゾンビ」。「源氏物語とゾンビ」…。見終わった後にあれこれ妄想をふくらませて、楽しんでしまった。

【60点】
(原題「PRIDE AND PREJUDICE AND ZOMBIES」)
(米・英/バー・スティアーズ監督/リリー・ジェームズ、サム・ライリー、ジャック・ヒ ューストン、他)
(意外性度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。