米司法省がドイツ銀行に住宅ローン担保証券をめぐる和解金を提案したのは、9月16日でした。2008年9月15日に発生したリーマン・ショックを思い出した市場関係者は、少なくないでしょう。
その約2週間前にあたる8月30日には、欧州連合(EU)がアップルに対し2003年から2014年において課税優遇措置が違法に政府補助だったとして、130億ユーロ(約145億ドル)の追徴課税をアイルランド政府に納付するよう命じました。
ついつい両者の関係を勘繰ってしまいそうになりますが、米司法省の和解金提示に絡み重要なイベントを予定していました。
そう、米大統領候補の第1回討論会です。
討論会では民主党のクリントン候補が余裕ある笑みを湛え、鼻をすする共和党のトランプ候補に鋭く切り込んできました。その一つが、米連邦所得税の支払いについて。トランプ候補から「米連邦所得税は払っていないのは、私が賢いからだ」との発言を引き出しました。
この発言がきっかけになったのか、クリントン候補の支持を表明するニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は、10月1日に”トランプ候補は最大18年間において米連邦所得税を支払っていない可能性(Trump Tax Records Obtained by The Times Reveal He Could Have Avoided Paying Taxes for Nearly Two Decades)”を独占で報じたものです。1995年に計上した9億1600万ドルの損失が甚大だったため、米連邦所得税控除につながったといいます。
トランプ候補が1988年に購入したプラザ・ホテル、損失をもたらした一因に。
(出所:Marty Lederhandler AP via New York Times)
トランプ候補と言えば、確定申告を公表していません。第1回討論会ではクリントン候補が削除したとされる3.3万件のeメールを明らかにすれば自分もリリースすると発言していましたが、米連邦所得税を支払っていない事実は既に言及済みです。一方で忘れてならないのは、確定申告に関わる資産報告書はメディアで扱われていましたよね。
こちらを思い出して下さい。トランプ候補の事業に高額融資していた大手銀行として、ドイツ銀行をはじめ欧州系の銀行が並んでいましたよね。融資する銀行が資金不足に陥れば融資の回収に向かう必要が生じるだけに、個人的には米司法省が動いたタイミングは非常に興味があります。
ただし、さすがに金融市場に異変が生じたため米司法省がドイツ銀行に和解金減額で決着をつけたとしてもおかしくありません。金融危機が発生した場合、現政権に近いクリントン候補よりトランプ候補に利する可能性が高いですから。
あくまで筆者の推測の域を出ませんけれども、興味深い時期に米司法省がドイツ銀行に和解金を提示したことに変わりありません。
米国では世論を形成するメディアは、クリントンの支持を表明しつつあります。USAトゥデーは9月29日、NYT紙とワシントン・ポスト紙にならい、クリントン候補支持を発表。共和党寄りのウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙ですら、”高齢者層、クリントン候補に支持傾く(Among Seniors, Clinton Grows More Appealing)”と題し、65歳以上は2004年以降の傾向に反し共和党候補者を支持していないとの世論調査を伝えています。
手のひら返しのごとく、メディアが煽ってきた感のあるトランプ人気を潰すかのような勢いです。トランプ支持者がひるむとは考えられず、第1回討論会後のように寄付金の増加につながるのではないでしょうか。
(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年10月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。