保育のニュースがもっと身近に。今さら聞けない、保育制度にまつわる素朴なQ&Aを、わかりやすく解説します。
今回のほいQは、保育事故について。保育事故は増えているのか、どのような対策が進められているのか、について。
保育事故は、1年間で600件以上
保育施設での痛ましい事故が相次いでいます。
また、下記の資料は、内閣府が発表した、昨年度の保育施設での重大事故についての資料です。
「教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について」
平成27年の1年間で、事故報告件数は627件。うち、死亡事故は14件でした。
死亡事故発生時の状況では、睡眠中が10件と、最も多くなっています。
今月に入ってから報道された上記2件の保育事故も、睡眠中の死亡事故でした。
「うつぶせ寝は厳禁」というのが保育業界では常識になっていますが、死亡事故発生時にうつぶせ寝の状態だったという事例は後をたちません。
保育施設での死亡事故の報道を受けて-「うつぶせ寝」はなぜいけないのか?
下記のように、2015年の「子ども・子育て支援新制度」施行を境に、保育施設の数は大幅に増加しました。しかし、施設数の増加と死亡事故件数には、この数字上では関連性は見られません。保育施設での児童の死亡事故は近年では毎年 14~19 件で推移しています。
もし、保育園で重大事故が起こったら ~国への報告義務~
保育園で重大な保育事故が起こった場合、自治体は速やかに事故状況について、国に報告しなければなりません。
平成27年4月から施行されている子ども・子育て支援新制度の中では、下記のように定められています。(特定教育・保育施設等における事故の報告等について)
この通知のポイントは、認可保育所だけでなく、無認可保育施設やベビーシッター、ファミリーサポート事業なども報告対象となっていること。それから、報告様式や報告の流れが具体的に提示されていることです。
少し長いですが一部を引用します。(太字は筆者)
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1.報告の対象となる施設・事業の範囲
・特定教育・保育施設(認定こども園、幼稚園及び保育所)
・特定地域型保育事業(小規模保育事業、家庭的保育事業、居宅訪問型保育事業及
び事業所内保育事業)
・地域子ども・子育て支援事業(一時預かり事業、延長保育事業及び病児保育事業
に限る。以下同じ。)
・認可外保育施設及び認可外の居宅訪問型保育事業
2.報告の対象となる重大事故の範囲
・死亡事故
・治療に要する期間が 30 日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故等(意識不明(人
工呼吸器を付ける、ICUに入る等)の事故を含み、意識不明の事故については
その後の経過にかかわらず、事案が生じた時点で報告すること。)
※特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準(平成 26 年
内閣府令第 39 号)により、事故が発生した場合には速やかに市町村、子ども
の家族等に連絡を行う必要があることに留意すること。
3.報告様式
別紙1のとおり
4.報告期限
国への第1報は原則事故発生当日(遅くとも事故発生翌日)、第2報は原則1か
月以内程度とし、状況の変化や必要に応じて、追加の報告を行うこと。また、事故
発生の要因分析や検証等の結果については、でき次第報告すること。
5.報告のルート
○特定教育・保育施設、特定地域型保育事業者及び地域子ども・子育て支援事業
施設又は事業者から市町村(指定都市及び中核市を含む。以下同じ。)へ報告を
行い、市町村は都道府県へ報告することとし、都道府県は国へ報告を行うことと
する。
○認可外保育施設、認可外の居宅訪問型保育事業
施設又は事業者から都道府県(指定都市及び中核市の区域内に所在する施設又
は事業者については、当該指定都市又は中核市。)へ報告することとし、都道府県
は国へ報告を行うこととする。※別紙2参照(下記)
6.国の報告先
○特定教育・保育施設等について
・特定教育・保育施設(幼保連携型認定こども園)については内閣府
・特定教育・保育施設(幼稚園型認定こども園及び幼稚園)については文部科学省
・特定教育・保育施設(保育所型認定こども園、地方裁量型認定こども園及び保育
所)、特定地域型保育事業(小規模保育事業、家庭的保育事業、居宅訪問型保育事
業及び事業所内保育事業)並びに認可外保育施設及び認可外の居宅訪問型保育事
業については厚生労働省
へ報告を行うこと。
○地域子ども・子育て支援事業について
・幼保連携型認定こども園で実施する場合については内閣府
・幼稚園型認定こども園、幼稚園で実施する場合については文部科学省
・それ以外の場合については厚生労働省
なお、施設・事業者から報告を受けた市町村又は都道府県は、内閣府、文部科学
省又は厚生労働省への報告に加え、消費者庁消費者安全課に報告(消費者安全法に
基づく報告)を行うこと。
図は「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」(平成28年3月)より
7.公表等
都道府県・市町村は、報告のあった事故について事案に応じて公表を行うととも
に、防げなかった要因や再発防止策等について、管内の施設・事業者等へ情報提供
すること。また、再発防止策についての好事例は内閣府、文部科学省又は厚生労働
省へそれぞれ情報提供すること。
なお、6により報告いただいた情報については、全体として内閣府において集約
の上、事故の再発防止に資すると認められる情報について、公表するものとする。
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平成22年に厚労省から通知された「保育所及び認可外保育施設における事故の報告について」によって、「重大事故が起こった場合は必ず報告する」ことは定着してきていましたが、保育事故が起こった際の報告義務について、この通知によって、より具体的に定められたと言えるでしょう。
しかし、「子ども子育て支援新制度」によって、認可保育所では、重大事故が起きた場合、自治体に報告するよう義務づけられている一方で、上記の通知には法的拘束力がないため、認可外保育施設の報告数が実際より少ないのではないか、という懸念が指摘されています。事故の公表については自治体の裁量に委ねられている部分が大きいという部分も、今後検討が必要です。
保育事故を防ぐための新たな取り組み
国では、保育事故を防止するために、検討を重ねてきました。近年は、下記のような取り組みを新しく始めています。
①保育事故のデータベース化
平成26年9月から、内閣府、文部科学省、厚生労働省により設置された「教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会」で、事故の再発防止策について議論が重ねられてきた結果、保育所などでの重大事故の情報を、国がデータベース化し、内閣府のホームページで公開するという取り組みが始まりました。
参考:内閣府ホームページ 特定教育・保育施設等における事故情報データベース
現在、内閣府のホームページ上で、平成27年度分、28年度分が誰でも閲覧できるようになっています。実は、この取り組みが始まるまでは、国で保育事故の分析や検証はしておらず、保育事業者の間で共有もされていませんでした。
事例共有が可能になったことで園ごとに職員研修で利用するなど、事故の再発防止に取り組めるという点では大きく前進したと言えます。
②事故の原因究明を行う第三者委員会の設置を提言
平成27年12月に行われた検討会最終取りまとめでは保育施設での重大事故の発生後に地方自治体が第三者委員会を設置して、事故の原因を究明することが提言されました。
現在の内閣府ホームページ上でのデータベースだけでなく、さらに地方自治体が中心となって保育事故の事後検証を行うよう体制整備を求めたのです。
ポイントは、利用する施設によって子どもの安全面に違いが出ないよう、子どもを預かる制度全体として考えるべきとして認可外保育所や一時預かりなども対象に含められたこと。
ただし、これら再発防止のための検証委員会の設置については、法的義務が課されておらず努力義務にとどまっています。
③ガイドラインの策定
平成27年12月の最終取りまとめを踏まえて平成28年3月には「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」が作成されました。
参考:内閣府ホームページ 教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン (平成28年3月)
これは、特に重大事故が発生しやすい睡眠中・水遊び・食事中など、場面ごとの注意事項や、事故が発生した場合の具体的な対応方法等について、各施設・事業者、地方自治体の対応の参考となるようにと定められたものです。事故防止のためのガイドラインや事故発生時の対応マニュアルを作成すること、事前の通告なしに保育施設の立ち入り調査ができることを明確にすることなども提言されています。
検証制度はまだ不十分
上記のように、一歩ずつですが重大事故再発防止のための取り組み、基盤整備が進んでいますが、まだ道半ばです。
今年度からは「教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議」が始まったように、データベースの質の向上や検証委員会設置の義務化など、より踏み込んだ施策が求められています。
現時点で、検証制度が十分に機能していない場合の理由の1つには、無認可保育施設が公的保険に入ることができないという、保険制度の問題があげられます。
認可保育所は、(独)日本スポーツ振興センターが提供する、過失の有無を問わない公的保険に入ることができます。この保険に入っていれば、保育事故が起きてしまった場合、園の過失の有無に関わらず、日本スポーツ振興センターから保護者へ給付金(医療費、障害見舞金又は死亡見舞金)が支払われます。しかし、特に認可外保育施設で事故が起こった場合、この保険への加入が認められていないので、賠償問題に発展することを恐れて、きちんと検証がなされていないといった現状があります。
保育事故の背景をきちんと検証することと、個々の事例での保育士の責任問題は、本来であれば切り離されなければなりません。
現在「赤ちゃんの急死を考える会」は、(独)日本スポーツ振興センターが学校や幼稚園・認可保育所向けに提供している、過失の有無を問わない公的保険(災害共済給付)の適用を、認可外保育施設にも広げることを要望しています。
参考:JAPAN SPORT COUNCIL 日本スポーツ振興センターのホームページより
認可外保育施設には補助金が出ていないことを理由に、今まで国や自治体は十分な関与をしてきませんでした。しかし、預けられている施設の違いは、子どもには関係がありません。認可外保育施設は、認可保育所に入れなかった子どもの受け皿にもなっています。子どもたちが、安心安全な環境で過ごすことができるよう、認可・無認可の枠組みにとらわれず、仕組みをつくっていくことが必要です。
待機児童解消に向けた施策が、保育事故の増加につながるのではないかと指摘されています。待機児童解消と保育事故の防止、この2つを両輪で進めていくためには、実際に起こってしまった事故を丁寧に検証し再発防止につなげていくことが重要です。過去の教訓を検証し、保育環境の向上、職員の資質向上に努めることが、保育事故を防止するための第一歩です。
亡くなったお子さんのご冥福をお祈りするとともに、二度とこのような事故が起きないための、更なる取り組みを望みます。
著者プロフィール
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- ほいQチーム
- 保育のニュースがもっと身近に。今さら聞けない、保育制度にまつわる素朴なQ&Aを、わかりやすく解説します。
編集部より:この記事は認定NPO法人フローレンス運営のオウンドメディア「スゴいい保育」より、2016年9月16日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「スゴいい保育」をご覧ください。