ワールドカップ最終予選で日本がイラクを相手に苦しい戦いを強いられているころ、FTが非常に興味深いニュースを報じていた。”Saudi Aramco prepares to publish accounts for the first time” (around 20:30 on Oct/6/2016 Tokyo time) という記事だ。
「同社に近い4人によると」としている箇所もあり、十分に信憑性の高いニュースだろう。
サブタイトルも「世界最大の石油生産会社が、計画されているIPOに先立ち、業界並みの数値(industry-friendly figures)を公表する」となっている。
筆者にとって目新しい事項を順不同に書き出し、次のとおり紹介しておこう。
・2018年予定のIPOを前に、投資家たちに対して2017年の数値を業界並みに発表できるように経理処理方法の改訂作業を行っており、早ければ2017年にも、2015年と2016年の決算内容を遡及して発表できるように準備作業を行っている。
・MBSが4月に発表したように、サウジアラムコの時価総額は2兆ドルになる可能性があり、現在最大のアップル(6,000億ドル強)を抜いて世界最大となる。
・アナリストの推計では、価格下落の前の2014年のサウジアラムコの収入は、同年のアップルとマイクロソフトの収入を合算したものより巨額だったと見込まれている。だが、同社の運営は国家と複雑に絡み合っているため、実態は長いあいだブラックボックスの中だった。
・同社は、政府支出の大部分をまかなっているのみならず、サウジ国内最大の雇用主であり、学校や病院、あるいはスポーツスタジアムなどの建設も行っているため、同社の中核であるエネルギー事業の実態を明らかにすることを複雑にしている。
・サウジアラムコは、BPやエクソンのように、原油生産部門、精製部門および石油化学部門の収入や損益を報告できるよう作業に傾注していると伝えられている。
・同社が決算をどのような形式で発表するかはまだ変るだろうが、同社の幹部と海外コンサルタントからなる「IPOチーム」は、事業部門ごとの今日までの損益明細表を作成している、と消息筋は伝えている。
・サウジアラムコの市場価値評価において重要なのは、株主への配当政策と国家に税金およびロイヤルティをいくら払うか、ということだ。他の重要要素として、サウジの要人によれば、同社のバランスシートには保有埋蔵量を織り込まない、という問題がある。ファーリハ・エネルギー大臣は今年の6月、目標生産量と生産能力については国家が決定権を保持すると語っており、サウジアラムコ自らは決定権を持たないようだ。
・リヤド以外の複数の上場先として、東京、香港、ニューヨーク、ロンドンなどが挙げられているが、同国の原油販売先の中心(65%)でありさらに増えそうだ、ということに加え、情報開示義務の少ないアジアの可能性が高い、と消息筋は言う。ロンドンは競争しているが、ニューヨークは、先ごろ米国議会が、911テロ事件の被害者がサウジ政府を提訴できるという法案を可決したこともあって、有力ではなくなっている、と。
・JP MorganとCitigroupのスター銀行マンだったマイケル・クラインがIPOのアドバイザーとなっている。
・また上場準備作業の複雑性から、IPOは2018年から遅れる可能性もある。
・IPOを前に、当面の投資は中核である原油生産と精製部門に集中するだろう、とサウジアラムコの戦略に詳しい人はいう。「間違いなく会社が投資家に魅力的に見えるようにすること、というのがすべてに優先している」と。
なるほど、なるほど。
そう言えば、国債発行の件はどうなっているのだろうか?
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年10月6日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。