「50ドルの壁」ってなに?

昨日(10月6日)のNYMEX期近もの(11月受渡し)は、ほぼ4ヶ月ぶりの高値となる50.58ドルをつけたあと、50.44ドルで引けた。
ふむふむ、これからラリーが始まるな、というのが最初の感想だが、同時に、お前は『日経プラス10』(BSジャパン、9月29日)で「50ドルの壁」って言っていたが、あれは何なんだ、という声が聞こえた。

「壁で跳ね返されて、50ドルを越えない、という意味ではなかったのか?」
10分程度の解説時間内には詳しい説明は無理なので、記憶に残るフレーズとして「50ドルの壁」を使用したのだが、言わんとしていることは次のとおりだ。

筆者の見たては、50ドル程度となるとDUC(掘削済み未仕上げ)坑井が生産に移行する作業に入る、リグを稼働しての新規掘削は55ドル程度、昨年4月のピークを超える本格的な増産には60ドル以上が必要だろう、というものだ。

昨日のNYMEXの終了時のデータを眺めてみると、いくつか興味深い事実が読めてくる。

いわゆる先物(オプションやスワップを含まない)の取引量は10億9,300万バレルとなっている。この春以降の取引量は、最少が8月29日の4億9,600万バレル、最多が9月28日の16億4,600万バレルなので、昨日の約11億バレルは平均より多い数量だろう。
(ちなみに世界全体の生産量は1日あたり9,000万バレル強)

株式市場で「建玉」と呼ばれる未決済取引残高(Open Interest、OI)は膨らんで19億900万バレルとなっており、この春以降では最多である。なお最少は5月23日の16億2,200万バレル。

興味深いのは、受渡しが先のものの終値水準だ。
取引量が多い、あるいは取引されている12月受渡しものの終値は、2016年50.98ドル、2017年54.36ドル、2018年55.55ドル、2019年56.47ドル、2020年57.42ドル、2021年58.37ドルとなっており、2022年12月は取引がなかった。

もし筆者がリース(鉱区)を所有している中小のシェール業者で、どうにか資金繰りがついたとしたら、2017年12月と2018年12月の先物を売って、それから掘削の準備に入るような気がする。すなわち、55ドルくらいの価格で売れるなら、今から新規に掘削しても採算が取れる、と判断するのではなかろうか。

ちなみに取引量とOIは、それぞれ4,642万バレル/1億6,500万バレル、853万バレル/5,090万バレルとなっている。それなりの量だ。

つまり「50ドルの壁」とは、期近でDUCが生産に移行する水準であり、同時に1~2年先の価格が55ドル水準となりリグの稼働が加速する水準、すなわちシェールの生産増が顕著となるので価格上昇が止まる、だから売っておこうという動きが出てくる水準なのではなかろうか、ということである。

あれ? 神様のみが知っている世界の話を勝手にしてしまった。
何という恐れ多いことをしてしまったのだろうか。
トホホ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年10月7日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。