【映画評】少女

「少女」メイン

夏休み、高校2年生の由紀は、親友の死を目撃したという転校生の話を聞き、人が死ぬ瞬間を見たいという強い思いにかられて小児科病棟でボランティアを始める。由紀の親友の敦子もまた、由紀には内緒で老人ホームのボランティアをしていた。陰湿なイジメを受け生きる気力をなくしている敦子は、人が死ぬ瞬間を目撃すれば、再び生きる希望がわくのではないかと思っていたのだ。やがて彼女たちの周囲にいる人々の点と点が結びつき、思いがけない結果を生んでいく…。

心に闇を抱え死の瞬間を目撃したいと切望する2人の女子高生の夏休みを描く「少女」。原作は、「告白」をはじめ、多くの作品が映画化されている湊かなえの同名小説だ。中心になるのは、読書好きでいつも小説を書いている由紀と、剣道の大会で失敗して以来イジメを受けている敦子の2人。彼女たちは親友なのだが、過去のある出来事からぎこちない関係になっている。二人の周囲にいる人々が、思いがけない形でからみあう演出は、少しずつ全体像が見えてくるジグソーパズルのようだ。敦子のために小説を書く由紀、由紀の小説を盗んで文学賞を取る国語教師、転校生は敦子を恐喝の共犯者にし、ボランティア先では余命僅かな少年が最後の願いを胸に秘める。

「少女」サブ認知症を患う由紀の祖母が言う“因果応報”が、すべての悪意を巧妙に結び付けていく。大人でも子どもでもない独特の時間を生き、自分勝手で危うい、それでいて繊細で可能性に満ちているのが17歳。死に魅入られてしまうのは、狭い世間しか知らない若さゆえなのだが、共にトラウマを抱える由紀と敦子は、死の瞬間を見るために訪れた小児病棟や老人ホームで、逆に生の大切さを学んでいくという展開に、希望が込められている。ただ、遺書として登場する多分に演劇的な演出は、物語の中で浮いていて、しっくりこなかった。

暗闇の中をひとりぼっちで綱渡りしていると思い込んでいた世界が、本当は多くの人々と一緒にいる広い空間だと気づいたとき、彼女たちを覆う闇がはれる。これはミステリーというより、少女たちのサバイバル劇なのだ。終始冷ややかな表情の本田翼と、生気のない顔の山本美月の二人の美少女が、今までのイメージを覆す暗い役で熱演。ほっこりとした癒し系の作品が多かった三島有紀子監督だが、本作では繊細かつ冷徹な演出が光っていた。
【60点】
(原題「少女」)
(日本/三島有紀子監督/本田翼、山本美月、真剣佑、他)
(陰湿度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。