【映画評】グッドモーニングショー

渡 まち子

朝のワイドショー「グッドモーニングショー」のメインキャスター澄田真吾は、付き合っていると勝手に勘違いしているアシスタントの小川圭子から生放送中に自分たちの交際を公表しようと迫られアセる。さらにプロデューサーの石山からは番組の打ち切りを告げられ落ち込んでしまう。そんな時、都内のカフェで爆弾を持って人質をとる立てこもり事件が発生。犯人はなぜか澄田を交渉役に指名した。落ち目のキャスターの澄田が、にわかに全国的に注目され、防弾チョッキ姿で犯人に向き合って説得するという前代未聞の生放送が始まった…。

ワイドショー番組のメインキャスターの災難だらけの1日を描くコメディータッチのヒューマン・ドラマ「グッドモーニングショー」。「踊る大捜査線」シリーズなどで脚本を手掛けた君塚良一が監督を務めるが、業界の第一線で活躍してきた人だけに、テレビ局の裏事情をわかりやすい面白さで活写している。時間に追われる生放送、番組構成の優先順位、情報番組と報道番組の上下関係と確執、数字に一喜一憂する視聴率競争に視聴者の生の声などなど、どれも業界人なら「あるある」だろうし、テレビ業界を知らない人なら「へぇ~」と感心することばかりだ。

主人公の澄田は、かつて報道番組のエースキャスターだった過去を持つ。彼が報道番組から遠ざかった理由、澄田家の家庭の問題、根拠のない不倫関係まで、すべてが立てこもり事件とうまく関連付けられていて、飽きさせない。澄田の防弾チョッキに仕込まれたスタッフ手作りの隠しカメラの映像がこれまた面白い。生放送中に社会への不満を持つ人物が事件を起こし、テレビ局の面々が翻弄されつつ巧妙に利用しながら、自らの仕事をこなしていくという展開は、米映画「マネー・モンスター」にそっくりだ。緊張感や社会派ドラマとしてのメッセージ性は遠く及ばないが、本作にはユーモアと人情味があり、エンタメ映画として、いい意味での軽さがある作品に仕上がっている。

ワイドショーといえば、時に下世話な内容でネタを追い、大衆におもねるイメージがある。それでも番組作りのスタッフたちは、情熱やプライドを持って取り組んでいるという、テレビ業界人の誇りもチラリ。主演の中井貴一をはじめ、勘違い女子がサマになっている長澤まさみや、生真面目なアシスタント役の志田未来ら、キャストは皆好演。楽しく笑ったその後に、テレビや情報とは、私たちにとっていったい何だろうと、ちょっと考えてみたくなる。
【65点】
(原題「グッドモーニングショー」)
(日本/君塚良一監督/中井貴一、長澤まさみ、志田未来、他)
(エンタメ度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月8日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式サイトより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。