トランプ大統領誕生の可能性を示す数字

渡瀬 裕哉

無題

トランプの女性蔑視スキャンダル炸裂、しかし接戦州の世論調査はまだまだ拮抗状態

トランプ氏のいわゆる「ロッカールームの中」の会話が暴露されたことで、共和党のエスタブリッシュメントらが次々と離反し、トランプ陣営は崩壊するかと思われました。しかし、その支持率は意外と粘り腰を発揮している状態です。

10月17日公表のCNNの世論調査でオハイオ州ではトランプ氏がヒラリーを僅かに上回る支持率を獲得しており、その他の地域を対象とした各種世論調査でも接戦州でヒラリーとの差は概ね5%以内におさまっています。

http://www.realclearpolitics.com/epolls/latest_polls/(世論調査総合サイト)

トランプ氏の最も支持率が高かった状態から著しい落ち込みを見せていますが、巷で語られているように「ヒラリー圧勝で完全に勝負がついた」と言い切れるほど現実の数字は離れていません。

共和党支持者・民主党支持者の間に広がる溝は簡単に乗り越えられるものではない

トランプ氏の女性蔑視発言(というよりも家族の価値観を毀損する発言)は、伝統的な家庭像を大切にする米国共和党保守派にとっては極めて問題があるものでした。ただし、トランプ陣営は第二回テレビ討論会などの大舞台で共和党保守派に対する強烈なメッセージを送って止血を図ることに成功しています。

TV討論会についてもトランプ・ヒラリー両者の勝敗に関して共和党支持者・民主党支持者の理解には相違が存在しており、同じテレビ討論を見ても同一の評価に辿り着くことが難しい状況です。また、そもそもトランプ氏に圧倒的に不利な問題設定がなされているテレビ討論会自体を共和党支持者は快く感じていない向きもあります。

共和党のエスタブリッシュメントがトランプ氏への不支持を表明したとしても有権者の間に生じている亀裂は解消されるわけではなく、トランプ支持・ヒラリー支持の割合が大きく崩れず、選挙戦までギリギリの拮抗した状況が続くものと思います。

仮にヒラリー陣営にスキャンダルが新たに発生することになった場合、現在のヒラリーやや優勢の状況に変更圧力が加わることになり、場合によってはトランプ氏の支持率が相対的に回復する可能性もあります。

トランプ・ヒラリーの争いに嫌気が差した有権者が第三極に流れていく可能性も・・・

最近、オバマ大統領を始めとする民主党陣営はリバタリアン党のジョンソン候補に対するネガティブキャンペーンに力を入れていました。これはサンダース支持者などの積極的にヒラリーを支持しているわけではない民主党支持層がリバタリアン党のジョンソン候補や緑の党のステイン候補に流れ始めていたからです。

ヒラリーを表面的に支持する層は決して積極的なヒラリー支持者ばかりというわけではありません。むしろ、サンダース支持者などの反ヒラリー的な要素を抱えた有権者も多く存在しており、それらの層が大統領選挙への投票を棄権する可能性や第三極候補に流れる可能性が存在しています。

サンダース氏との予備選挙中から常に指摘されてきたことですが、ヒラリー自身は何故彼女が大統領になるべきなのか、という説明を怠り、いまだにその正統性について十分に有権者にアピールできていません。

トランプ支持者・共和党保守派はエスタブリッシュメントの牙城を崩せるのか

一方、トランプ氏の支持者は、熱烈なトランプ支持者、共和党保守派、名ばかり共和党員(RINO:Republican in Name Only)に分かれています。熱烈なトランプ支持者は予備選挙中に新たに共和党に加わった層であり、トランプ自身を積極的に支えるインセンティブを持っています。

トランプ氏が共和党保守派へのメッセージが功を奏して同支持者からの支持低下を食い止めることが出来た場合、最初からヒラリーを事実上推している共和党のエスタブリッシュメントなどのリベラルな傾向があるRINOが裏切ったところで十分に戦うことができるでしょう。

実際、トランプ支持者と保守派支持者からの突き上げを食らって、トランプ不支持を表明した議員らが態度を一転して軟化させるケースも出てきています。共和党指導部が諦めても地場の共和党員はまだまだ戦う意欲が残っている状況です。

不確定要素が多く残された米国大統領選挙、トランプ勝利の可能性はあるのか?

関ヶ原の合戦中に小早川の裏切りにあったようなトランプ陣営ですが、困難な状況を逆転する可能性が残されているのでしょうか。かなり苦しい状況ではあるものの、トランプ勝利の可能性は残されています。

その根拠はヒラリー・クリントンの不人気です。現在、米国では毎日のようにメディアとセレブがトランプ・バッシングを繰り返して滅茶苦茶な状況になっていますが、トランプのネガティブ情報のシャワーを浴びさせられているはずの有権者がヒラリー支持に雪崩を打って流れ込む状況になっていません。

世論調査によってはトランプ氏よりもヒラリーのほうが当選後のスキャンダルについて心配する比率が相対的に高いという結果になったものすら存在しています。ヒラリーも有権者から信任を得ているとは全く言えない状況です。

むしろ、ヒラリーに対する不信感はメディアが盛り上げるトランプへの拒絶感よりも米国民の底に根差したものであるように感じられます。ヒラリーに対する不信感はマグマのように滞留しており、一度噴き出すことになれば押し止めることは困難でしょう。そのとき、トランプ氏が大統領選挙で勝利を得るという構図が生まれることになります。

いずれにせよ、既に米国大統領が決まる日まで一か月を切っています。「既に決着がついた」というヒラリー陣営の選挙キャンペーン(笑)が横行していますが、勝敗はまだ予断を許さない状況です。

トランプ
ワシントン・ポスト取材班
文藝春秋
2016-10-11

 

 

 

 

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