トンネル修繕工事計画、ブルックリンの人気住宅地に打撃

ブルックリン

ウィリアムズバーグといえば、イーストリバーを挟んだマンハッタンの対岸にたたずみます。ユニオン・スクエア駅から地下鉄L線にて10分程で到着する利便性から、人口増加に合わせ開発が進んできました。マンハッタンとは一線を画すローカル色の強さと若手層が築く自由な空気が人気を呼び、ヒップスターの聖地といっても過言ではありません。

ドラマ“セックス・アンド・ザ・シティ”で弁護士のミランダがマンハッタンからブルックリンに引っ越す場面では都落ちの感は否めなかったものですが、今となってはここに住むことがステータスと化しています。

注目度が高まるに比例して、家賃や住宅価格は着実に高騰してきました。不動産会社MNSによると1ベッドルーム(1LDKあるいは1DKに相当)の平均家賃は2016年7月に3,253ドルと、金融危機後の回復が鮮明になった2011年同月の2,875ドルから13%も上昇。住宅価格もうなぎ上りで、不動産情報大手トゥルーリアによると住宅販売価格・中央値は2016年7月に95万ドルと、2011年上半期の約50万ドルから2倍近くも急伸したのです。 しかし、ここに来て異変が生じています。住宅販売価格が8月に85万ドルへ下落しました。さらに販売件数も35件と、米連邦公開市場委員会(FOMC)による利上げ開始前に記録した同年10月の55件から落ち込みを見せています。

1平方フィ—ト当たりの価格、1年半に及ぶL線運行停止の発表を受け下落に反転。

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(出所:Trulia

一因に、ウォール街の業績不振が挙げられます。2015年通期の米国内総生産(GDP)は前期比年率2.4%増(連邦政府や輸出関連などを除く)でしたが、NY州は1.4%増にとどまりました。低金利で利ザヤが縮小したほか2015年8月の人民元切り下げに端を発した金融市場の混乱により、ウォール街の業績下押しが響いたことは想像に難くありません。NY州経済は金融(不動産、保険含む)に依存し、30%を占めます。 もうひとつ、忘れてならないのはインフラ工事です。

メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ(MTA)は8月、ウィリアムズバーグとマンハッタンを唯一結びL線が走るトンネルの修復工事を決定しました。期間は2019年1月から1年半に及ぶといいます。L線なら最寄りのベッドフォード・アベニュー駅からユニオン・スクエア駅まで直通3駅のところ、人によっては3度の乗り換えが必要になり、乗車時間は10分前後から4倍以上延びる見通し。さらに予定通りに終了するかは不透明とあって、潮が引いたように顧客が去っていったのも頷けます。 日本人には信じられない話ですが、修繕工事は2012年に直撃したハリケーン“サンディ”がもたらした置き土産。陸の孤島と化すウィリアムズバーグの不動産投資を機会と捉えるかどうかは、買い手の判断に委ねられます。

(カバー写真:Bryan Pocius/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年10月18の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。