11月FOMC、次回利上げヘ向け着実に地均し

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11月1〜2日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、予想通りFF誘導金利目標の据え置きを決定した。今回の声明文では景況判断で個人消費が下方修正されたものの、インフレへの文言の表現を統治目標に掛かる部分と合わせ上方修正。経済見通しのリスクに対し「概して均衡に見える」との文言は維持し、12月利上げにつなげた。

政策金利に係る3段落目に「委員会は利上げへの論拠が強まったと判断するものの、当面は(最大限の雇用とインフレ2%という二大)目標への進展が継続しているというさらなる証拠を待つことを決定した」との文言は、文頭を「委員会は利上げの論拠がさらに強まり続けたと判断」に差し替え、12月利上げのサインを点灯させている。反対票はこれまで1月と6月を除いて利上げを求めてきたカンザスシティ連銀のジョージ総裁のほか、前回に続いてクリーブランド連銀のメスター総裁の2人。前回反対票を投じたボストン連銀のローゼングレン総裁は、賛成票に転じた。

声明文の主な変更点とポイントは、以下の通り。

【景況判断】
前回:「家計の支出は力強く拡大」

今回:「家計の支出はゆるやかに拡大」
米7〜9月期個人消費が2.1%増と2014年10〜12月期以来の力強さをみせた米4〜6月期から半減したため、表現を下方修正。

前回:「インフレは委員会の長期目標である2%を下回って推移し続けている」

今回:「インフレは年初から幾分上昇したが、まだ委員会の長期目標である2%を下回っている」
米9月PCEデフレーターは原油価格の回復を受けて前年比で2014年11月以来の高水準、コアPCEも前年比で1.7%上昇。米9月消費者物価指数(CPI)も前年比1.5%上昇し2014年10月以来で最高、コアCPIは前年比2.2%。

前回:「市場ベースのインフレ動向は低い水準を維持」

今回:「市場ベースのインフレ動向は上昇したが、低い水準を維持」
※5年先5年物期待インフレ率は1.84%まで上昇、2月や6月の1.4%台から上昇。

5年先5年物期待インフレ率は7月以降、上昇に反転。
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(出所:Federal Reserve Bank Of Philadelphia)

【統治目標の遵守について】
前回:「インフレは、年初の原油価格の下落を反映し短期的に低水準を維持する見通しだが、中期的に過去のエネルギーや輸入物価の下落という一時的効果が減退し、労働市場が一段と強まれば2%へ上昇していく」

今回:「インフレは、中期的に過去のエネルギーや輸入物価の下落という一時的効果が減退し、労働市場が一段と強まれば2%へ上昇していく」
※原油価格の回復でヘッドラインの物価が上向いていることに対応し、「年初の原油価格の下落を反映し短期的に低水準を〜」の部分を削除。

前回:「短期的な経済見通しリスクは概して均衡に見える」

今回:「短期的な経済見通しリスクは概して均衡に見える」
※12月利上げへの地均し。

【政策金利について】
前回:「委員会は利上げへの論拠が強まったと判断するものの、当面は(最大限の雇用とインフレ2%という二大)目標への進展が継続しているというさらなる証拠を待つことを決定した」

今回:「委員会は利上げへの論拠が一段と強まり続けたと判断するものの、当面は(最大限の雇用とインフレ2%という二大)目標への進展が継続しているという、いくつかのさらなる証拠を待つことを決定した」
※12月利上げの地均し。さらなる証拠に「いくつか=some」を追加することで、利上げへのハードルが低い環境を示唆。2015年7月FOMCでは、利上げのメドとされる労働市場をめぐり「いくつかの改善」との文言を追加した経緯がある。

【票決結果】
票決は、カンザスシティ連銀のジョージ総裁とクリーブランド連銀のメスター総裁が利上げを目指し反対票を投じた。ボストン連銀のローゼングレン総裁は、前回の反対から賛成にまわった。年内で3月、4月、7月、9月に続き全会一致でなかったのは5回目。1月と6月のみ、全会一致だった。輪番制である地区連銀の総裁は、カンザスシティ連銀のジョージ総裁、セントルイス連銀のブラード総裁、クリーブランド連銀のメスタ―総裁、ボストン連銀のエバンス総裁へ交代した。なお2015年は1月、3月、4月、6月、7月と5回連続でゼロ、リッチモンド連銀のラッカー総裁が利上げを目指し反対票を投じた9月と10月を経て、12月はゼロに戻った。

FOMC声明文の変更を受けて、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙はFed番であるケイト・デビッドソン記者による「Fed、12月利上げの可能性を新たに点灯(Fed Sends New Signals About a Possible December Rate Increase)」と題した記事を配信。インフレへの文言を上方修正させたように、FOMC参加者の間でインフレが2%目標に達する自信が深まり、労働市場も堅調で12月利上げの道筋が固まりつつあると伝えた。

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは、声明文を受け「予想通りの結果」との感想を寄せた。ボストン連銀のローゼングレン総裁は、11月FOMC前に11月の利上げも12月も同じものといった見解を示していたため、「今回反対に回らなかったことは想定内」だという。注目点は、”委員会は利上げへの論拠が一段と強まり続けたと判断するものの、当面は(最大限の雇用とインフレ2%という二大)目標への進展が継続しているという、いくつかのさらなる証拠を待つことを決定した”という文言。2015年7月に盛り込んだ当時は同年8月に中国が人民元を切り下げ金融市場に衝撃が走ったものの、「12月利上げを強調するサイン」と解釈した。あえて2015年10月当時と異なり「次回会合で(next meeting)」の文言を避けた理由は、「カレンダー重視との判断を避けたもの」と分析した。

シカゴ・マーカンタイル取引所が示すFF先物が示す12月利上げ織り込み度は71.5%となり、前日の68.4%から上昇した。ブルームバーグ調べでは78%と、前日の68%から上昇した。

米株相場は今回の決定を受けまちまち。ダウは5日続落、S&P500は7日続落、ナスダックは横ばいで終了し続落基調を6日で止めた。米10年債利回りは低下、ドルは下落。金先物は米大統領選でのトランプ候補の勝利をにらみ続伸し約1ヵ月ぶりの高値に。原油先物は大幅続伸した。

――大方の予想通りFOMCは無風で終わり、12月利上げの地ならしを行いました。個人的には、ボストン連銀のローゼングレン総裁が賛成票にまわった点は興味深い。声明文で12月利上げを示唆するのであれば、反対票が3人でも問題はなかったことでしょう。しかし敢えて今回、賛成票に転じたのは米大統領選を直前に控えた配慮があったのかもしれません。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年11月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。