【映画評】ぼくのおじさん

渡 まち子
ぼくのおじさん (新潮文庫)

小学生のぼくこと雪男は、学校で「自分のまわりにいる大人について」をテーマにした作文の宿題を出される。困った雪男は、父の弟で怠惰な生活を送り、屁理屈ばかりこねる居候のおじさんのことを書こうと思いつく。そのおじさんが、見合いの相手で、ハワイの日系4世の美女・エリーにひと目ぼれ。だがエリーはコーヒー農園を継ぐためにハワイに戻ってしまい、おじさんは彼女に会いたい一心で、あの手この手でハワイに行こう画策する。ある日、雪男の作文がコンクールで優勝し、その賞品としてハワイ旅行が当たるという奇跡が起こる。雪男とおじさんは、さっそくエリーに会いにハワイに飛ぶが…。

変わり者で怠け者だがどこか憎めないおじさんとしっかり者の甥っ子の凸凹コンビが巻き起こす騒動を描くヒューマン・ドラマ「ぼくのおじさん」。一瞬、ジャック・タチの「ぼくの伯父さん」の日本版かと勘違いしてしまったが、原作は、芥川賞作家・北杜夫のユーモア小説だ。何しろ、このおじさんのダメダメぶりは、すさまじい。義姉に昼飯代をせびり、小学生の甥っ子にマンガを買わせ、宿題は手伝わない。居候のくせに、猫のエサの煮干しさえ強奪して食べる。屁理屈ばかりこねては万年床でぐうたらしている。職業は、大学の非常勤講師で、週に1コマだけ授業を持っている哲学者。小学生の雪男さえあきれるほどのダメ人間だが、なぜか憎めないのは、根っこの部分は善人で、何の役にもたっていないようで、思いもよらない状況で役に立つ人間だからだ。昭和の文豪の北杜夫は、自分をモデルにして書いたそうだが、このおじさんを演じる松田龍平が最高にハマっている。力が抜けきった棒読み演技と間延びしたたたずまい、淡々とした屁理屈やぼんやりした表情さえも味があって、誰もがおじさんを好きになるはずだ。物語は、おじさんの一方的な恋とその顛末を描くのだが、マドンナの恋を、結局は応援してしまう姿は、寅さんのようでもある。ユルい笑いと共に市井の人々が持つおかし味をあたたかくみつめる山下敦弘監督らしさがにじむ佳作に仕上がった。
【65点】
(原題「ぼくのおじさん」)
(日本/山下敦弘監督/松田龍平、大西利空、真木よう子、他)
(飄々度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。