【映画評】ミュージアム

渡 まち子

現場に“ドッグフードの刑”や“母の痛みを知りましょうの刑”などの謎のメモが残される猟奇殺人事件が発生する。犯人はカエルのマスクを被った、通称・カエル男で、事件は必ず雨の日に起こっていた。警視庁捜査一課の刑事・沢村は、一連の事件の関連性に気付き、犯人に近づいていく。だが、カエル男の次のターゲットは、沢村の妻子だった。犯人を追っていた沢村は、追われる立場になり、次第に追い詰められていく…。

残忍な猟奇殺人事件を繰り返すカエル男と、彼に妻子を狙われた刑事の命がけの攻防を描くサイコ・サスペンス「ミュージアム」。原作は巴亮介によるサイコスリラー漫画だ。一定の目的を持って、猟奇殺人を繰り返し、それを世間に“見せる”ことを喜びとする犯罪は、米映画「セブン」を連想させる。他者に見てもらうことで犯人が自分を主人公のように見立てる犯罪を、劇場型犯罪と呼ぶが、本作の犯人のカエル男は、自分を天才的な芸術家(アーティスト)だと思っている。彼が残すメモと常軌を逸した死体の造形は、カエル男の美術館(ミュージアム)に飾る作品なのだ。犯人の主張はどこまでも身勝手なのだが、刑事の沢村は、仕事に忙殺されて家庭を顧みなかった“罪”がある。一方で、沢村の妻には、夫の仕事を理解しない“罪”があった。夫婦の間には深い溝が出来てしまっているが、彼らの愛情を試すのがカエル男という構図なのだ。カエル男が雨の日だけを選んで凶行に及んでいるのは、実はワケがある。

ここにたどり着くのがトントン拍子すぎることや、猟奇殺人事件を扱うのにR指定を避けたことで、残酷描写は控えめ。ただ、はっきりと写さない分、想像力を刺激するし、薄暗い雨の中でのカーチェイスやアクションは、スピーディかつ洗練されていて、さすがは「るろ剣」で日本映画離れしたアクションを披露した大友啓史監督だと感心してしまう。家庭と仕事、冤罪と裁判員制度、心に深い傷を残すPTSD(心的外傷後ストレス障害)と、劇中には現代の病巣がしっかりと描きこまれていた。ラスト、一見ほのぼのとした風景の中に、身体を掻く何気ない描写が。これは原作にはない設定で、背筋が寒くなるような余韻となっている。
【70点】
(原題「ミュージアム」)
(日本/大友啓史監督/小栗旬、尾野真千子、野村周平、他)
(夫婦愛度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。