グリーン戦略:エクソン、シェブロンは欧州勢の後塵を拝している

トランプ次期米大統領は本当にパリ協定から撤退するのだろうか。

石油ガス業界は、気候変動への対応の舵取りを誤ると大変なことになるとの基本認識を持っており、同業界に投資をしている世界の機関投資家たちも強い関心を寄せている。

そんな中、FTが昨日(11月22日)、”ExxonMobil and Chevron near bottom of league on ‘green’ strategy” という興味深い記事を掲載した。

保有資産を合計すると100兆ドル以上となる世界の主要機関投資家800社以上が依拠している環境関連調査の非営利グループであるCDPが「どの石油ガス会社が未来への準備をしているのだろうか?(Which oil and gas companies are preparing for the future?)」という最新報告を発表した、という内容だ。

ここでは同記事のみならず、CDP報告のExecutive Summaryと合わせ、要点を次のとおり報告しておこう。

・11月4日にパリ協定が発効し、12月には「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)」の第二次報告書が発表されることとなり、石油ガス会社は低炭素経済への移行を見据え、資産ポートフォリオをより強靭なものにする必要性に迫られている。

・政策措置によりcarbon price(炭素排出量を減らすためのコスト、炭素税あるいはキャップアンドトレード)が課せられる時代がすぐに到来する一方、石油需要のピークが近づいており、保有資産が「放置された資産(stranded assets)」となる懸念にも対応しなければならない。

・電気自動車の普及や技術の発展などにより低炭素社会への移行が進む中、石炭火力の代替としてニーズが高まっている天然ガスは「橋渡し燃料(bridging fuel)」としてより重要になる。

・CDPは、CO2の90%以上を化石燃料が排出している現状に鑑み、現在3.5ギガトンのCO2と大量のメタンガスを排出している大手石油ガス会社11社(時価総額に基づく)のgreen strategyを評価した。これは適宜、見直しを行う。

・評価項目は、①Fossil fuel mix(保有資産及び生産量の燃料ミックス)、②Capital flexibility(投資の柔軟性)、③Climate governance and strategy(再生可能エネルギーやCCSなどへのR/D)、④Emissions and resource management(排出ガスおよび環境対策マネージメント)、⑤Water resilience(水など他の天然資源のマネージメント)、の5項目(配分比率は同一ではない)。

・11社のランキングが次のとおり。
1位 スタットオイル(那) ガス資産が圧倒的
2位 ENI(伊) ガス資産(エジプト)、太陽光プロジェクト(伊、アルジェリア、パキスタン)
3位 トタール(仏) ソーラーパネル製造のSunPowerやバッテリー製造のSaftを買収
4位 シェル(英蘭)5位 BP(英)、6位 オキシデンタル(米)、7位 ペトロブラス(伯)、8位 コノコフィリップス(米)、9位 シェブロン(米)、10位 エクソン(米)、11位 サンコール(加 オイルサンド)

・シェブロンは保有資産のうちガスの比率が3分の1以下。進行中のLNGプロジェクトが立ち上がるとガス資産が増加する。

・エクソンについては、保有埋蔵量および資産の評価を巡ってSECの審査が入っている。

ふむふむ。

筆者が石油開発事業に関与するようになった10数年前、同業界にいた友人から「その昔、掘削をしてガスが見つかると、石油技術者たちは舌打ちをしたものだ。ガスは気体で輸送が困難、コスト高なため、市場価値が見出し難かったので、たいていは坑井の蓋をして放置せざるを得なかったからだ」という話を聞いたことがある。今ではガス

資産を保有していることが会社価値を高めることに繋がっている。

時の移ろいともに価値基準は変わる。
10年後の世界はどうなっているのだろうか。
チェルシーかイヴァンカが「ガラスの天井」を打ち破っているのだろうか?


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年11月23日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。